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2006.12.15 朝景
 気が付けば一万HITだが、特に何も無い(面倒臭い挨拶)

 Guten Tag,王・けど嬉しい・里である。→ガンガン行こうぜ。

 かような事とは毛頭関係無いが、銀雨ことシルバーレインSSを書く。今回は塩森さん家の平凡な朝の風景を暁徒視点で展開。だが何時もと大差ない気がするのは何故なんだぜ。

 尚、挿絵は羽鳥に描いて貰う。「釣り目難しい釣り目」と言いながら描いてくれた事感謝。
 鎌倉駅から歩いて三十分程の郊外にある、五階建てのマンション。
 特に外観を説明するまでも無い、そこの三階の一室が俺の家だ。
 その更に一室である俺の部屋、本とビデオとCDの文字通り山と詰まれた中にあるソファの上で俺は目覚めた。
 服は昨日の夜と同じ、黒のタンクトップにジーンズ姿。首からずり落ちたヘッドフォンからはカイ・ハンセンが在りし日の美声を震わせており、寝転んだ腹の上には読み掛けの本が開かれたままで、表紙に飾られた電気羊がこちらを睨んでいる。
 どうもこうも無く、気付かぬ間に寝ていたらしい。
 まぁ元々ソファをベッド代わりにしているので、寝落ちしようと構わぬのだが、偉い寒いのは勘弁願いたい。
 時計を見れば、午後6:00。
 独逸暮らしの長い親父に叩き込まれた起床時間はどうやら早々取れないものらしい。
 あっちの朝は矢鱈早いのだ。
 とは言え、体と頭は睡眠を欲している。と言うよりも、寒くて起きる気になら無い。
 その辺りに転がっていた毛布を足で掴み、体に羽織って二度寝しよう、として思い止まる。
 そういえば今日の一限目は数学だったじゃないかい。
 ならば、そこで寝た方が良い。
 真面目な輩が聞いたらあいや待たれいと注意しそうだが、そう言う奴は勉学ってものを解ってない。そもそも学校を示す『School』の語源となった古代ギリシャ語の『schole』は暇を現す。つまり、勉学と言うものは余剰なある種の贅沢で、生活とは懸け離れている。実社会において、高校生以上の数学、理科の知識の役立つ機会が少ないのがその例だ。そう言うのはあくまで教養なのだから、学びたい奴だけ学ばせるべきだと俺は思う。ちょっと前に問題になった、単位未取得問題と言うのも、その本質は勉学を教養と見るか否かにあると言うべきだ。
 そんな寝起きの屁理屈練りは、脳を活性化してくれたらしい。
 すっかり目の冴えた俺は、首と腰を二、三回程回した。
 ゴキゴキと明らかに健康に悪そうな音がするが、心地良いので気にしない。
 腕をうーんと伸ばした後、ポケットから愛煙する『ブラックデビル』の箱を出し、一本取ると手早く火を付ける。
 ココナッツミルクの甘いフレーバー越しにニコチンの味が口内に満ちて往く。
 貪る様に朝の一本を吸い終えると、その辺りに転がってる灰皿に押し付ける。
 そして、クローゼットに押し込んである制服とシャツをいそいそと取り出すと、俺は洗面室へと向かった。

 十二月の六時とくれば、漸く朝日が登り始めて来る頃合だ。
 冷え切った木製の廊下をひたひたと歩く脚は何も履いておらず、直に寒さが登ってくる。
 俺はどうにかそれに耐え様と、腕を組んで爪先足立ちで小走りに廊下を歩く。
 生まれが十二月だからって、独逸のフランクフルトだからって寒いものは寒いのだ。
「あらお早う暁徒ちゃん。」
 居間兼台所を抜けようとすると、姉貴から声が掛かった。
 既に制服に着替えており、その上から薄緑のエプロンを着て朝食と弁当を作っている所だ。
 その眼の下の青白い肌には、薄らとだが隈がありありと浮かんでいた。
「Guten Morgen……あー、また遅くまで勉強してただろ姉貴。」
 とんとん、と足踏みしながら、そう聞いた。
「解る?熱中しちゃうと駄目ね、時間が過ぎるのを忘れちゃうから。」
「夜更かしは美容に悪いぜ。嫁の貰い手が付かなくなるさ。」
 余計なお世話、と笑顔で小さい手を握り込む姉貴を尻目に、そそくさと洗面室へ向かう。
 実際の話、昼は学校、夕からはバイト、合間合間に家事もして…これは趣味だそうだがね…夜ともなれば猛勉強と、一体何時、どれ程寝ているのやら。一度、深夜のB級映画を見ていて、珈琲を淹れに立った所、台所でばったり逢った時は驚いた。午前の三時位だったからだ。翌日眠気眼を擦りながら六時に起きた時、既に姉貴は起きて、てきぱきと動いていた。
 さっさと就職して少しでも楽にさせてやりたいもんだと思いながら、俺は洗面室にやって来た。
 それ程大きくない洗面台の横には、洗濯機と脱衣籠が二つ、そして大きめの棚が置かれている。
 俺は洗濯機の上に眼鏡を置くと、ぱっぱと服を脱ぎ、専用である…姉妹兼用は不味いだろ…籠に投げ込む。
 鏡に映るまだまだ貧相な裸体を見ぬ様、俺はさっさと隣の浴室に入った。
 小さな浴槽と、シャワーが設置されている、ごく普通の浴室だ。
 水温設定の蛇口を高めにすると、俺はきゅっとシャワーの蛇口を入れた。
 身を凍てつかせる無数の水滴に、思わずうっと顔を顰める。
 だが直ぐに水は適温まで上昇し、心地良い湯が肌に降り注いでゆく。
 このままずっと浴びて居たかったが、余り長いと姉貴が怒り出す。
 姉貴の趣味が反映して、几帳面に並べられたシャンプーを手に、俺はさっさと髪を洗い、体を洗った。
 湯を止めて、浴室を出る。
 大分温まったけれど、浴室を出た瞬間に肌寒さを感じた。
 湯冷めしては溜まらんと、棚から小奇麗なタオルを取り出し、体を拭く。
 しっかりと水滴が拭けた所で、用意していた服をもそもそと着替える。
 この銀誓館学園の制服は、上着のデザインが偉い特徴的である。
 と言うか、派手だ。何処ぞの国の軍服の様に長いコートは、女子の明らかに見えるだろうスカートのスリッドと相俟って、デザイナーのセンスと学園運営側の趣味を疑いたくなるものがある。まぁ嫌いでは無いのだが。
 家の中でそんなものを着る気は無いので、紫のシャツにズボンだけ履くと、俺は洗面室を出た。
「あ。」
 開けた瞬間、ばったりと美代と出逢った。
 俺と同じくシャワーを浴びに来たのだろう、ポニーテールを下ろし、パジャマ代わりのジャージ姿で、手には着替えらしき服を抱えていた。
「ん、Guten Morgen,美代。」
「お、お早う兄さん。」
 挨拶した瞬間、何故かそっぽを向きやがった。
 何か良く解らないが、とりあえず撫でて置く。

暁徒と美代

「うぁ……。」
 わたわたと慌て気味な反応の可愛さに満足しつつ、入れ違いに浴室を出た。
 あ、とそこで気付いた。
 丸眼鏡付け忘れた事と、髪下ろしていた事に。
 風呂上りなんかは下ろすけれど、眼鏡は常時付けっぱなしだから、珍しかったか。
 取りに戻ろうと思ったが、美代が入ってしまっている。
 まぁ後でいいかと思い直すと、俺は乾ききらぬ髪を拭きながら居間へと向かった。

 居間に来ると、既に朝食の準備が整っていた。
 テーブルに並べられているのは近くのパン屋で買って来たライ麦の食パンをトーストしたものに、ざっざっと盛られたサラダ。綺麗に円を成す目玉焼きに添えられた数本のヴルストとザウアークラウトと言う、正に朝食と言う品揃えだ。
 尚、弁当は別枠で、既にやり終えていると言う手際の良さ。
 毎日毎朝しっかり作ってくれる姉貴には、頭が下がる思いだ。
「お帰りなさい。美代ちゃんはシャワー?」
「あぁ、丁度入れ替わりだったよ。」
 定位置である小型テレビ前の椅子に座り、タオルを掛けながら、俺は応えた。
「それじゃ戻って来るまで待ってないとね。」
 そう言ってポットから珈琲を注ぐと、はいと姉貴は俺にマグカップを手渡した。
「ん、ダンケ。」
 愛用の銀のマグカップを両手で包み込む様に持つと、ぐっと鼻先に近づける。
 豊かな香りが胸一杯に広がり、快い湯気が頬に当たる。
 それに今度は唇を突けると、ずっとマグカップを傾けて啜った。
 苦い、しかしそれだけじゃない、香ばしい風味が口の中を満たした。
 やはり朝は珈琲だ。朝じゃなくても珈琲だが。
 そんな事を思いながら啜っていると、美代がやって来た。
 肩程まであった髪を結い上げ、男子用の制服を着ている。
 美代は、何故か男モノの服を超えて男装を好むらしく、まぁ学校の規則としては全く問題無いし、服装は個人の趣味ではあるのだが、兄としてはもっと女の子っぽい服装をして貰いたいと言うのが、
「……えっと、何、どうかした?兄さん。」
「あ~、いや何でも無いぞ。」
 訝しがる美代の頭を、ぽふぽふと撫でて誤魔化す。
 ぅ、と赤らめて何も言えなくなるのは、自明の事である。
「さて、それじゃご飯にしましょう。」
 そんな俺と美代を微笑ましげに眺めながら、姉貴が席に座った。
 美代も、頭を振り払い、自らの席に座る。
 三人が三人とも何時もの場所に着くと、ぱんと両の手を合わせた。
「頂きます。」
 同時に同じ挨拶をすると、朝食は始まった。
 まずはサラダを掴みで自分の皿に乗せる。レタスにスライスした玉葱、コーンが盛られたそれに、自家製のドレッシングを掛けて、もしゃもしゃばりばりと掻っ込む。
 その後、目玉焼きの黄身をフォークで潰すと、たらっと醤油を少し垂らして掻き混ぜ千切ったトーストにつけて口に運ぶ。
 熱を加えた事でトロミを増した黄身は醤油により適度な塩分を持って、パンと恐ろしい程の相性を発揮する。
「暁徒ちゃんお行儀悪いですよ。」
「……ん。」
 のだが、どうも姉貴と美代には理解されない。
 かく言う姉貴は苺のジャムを、美代の方はマーガリンを、ずっずと塗り付けて食べている。
 別に行儀の問題では無いと思うのだがな。
「スタンナだってやってた由緒ある食べ方だぜ?」
「せめてパズーにしておきなさい。」
 かりっとトーストを齧りながら、姉貴はそうそつなく返した。
「アレはトーストに乗せる意味が無いと思うんだがね。なぁ、美代。」
「きっと気分だよ気分。」
 美代に振るも、ヴルストを咥えながら素っ気無く応える。
 やはり少数派らしい。
 だがサイレントマジョリティと言う奴だろうと、気にせずトーストに黄身を付ける事とした。
 普段通りの朝食が過ぎて行く。

 食事が終われば後片付けだ。
 使った食器を重ね合わせ、洗い場にある銀桶の中に置くと、じゃぁっと水を注ぎ込む。
 水の力は偉大で、洗剤は少量で充分、それも油が付いたものにしか使わない。
 桶から取り出し、スポンジで擦り、隣に置くと言う作業を繰り返す。
 この間、姉貴は掃除機を掛け、美代は昨日洗濯機に掛けた服を干している所だ。
 学校がある為、どうしてもこの時間帯にやっておく必要がある。
 そうこうしている内に、洗物はすっかり無くなった。
 元々そんなに量が多い訳では無いので、やる方としては楽な仕事だ。
 後は洗い終えた食器を拭き、食器棚へと戻して行くのみだ。
 単調な仕事に、技術も時間も必要無く、作業はあっと言う間に終わってしまう。
 それが済むと、俺は洗面室へと向かった。
 鏡の前に立つと、棚に収まっているワックスを取り出し、手に付ける。
 指の平でねっとりと伸ばすと、髪に向かって、かき上げる様に塗り手繰る。
 髪質がヌルい為、一度だけで無く、何度も何度も塗り手繰る。
 それでも前髪が数束、勝手に垂れてくるがこれはそのまま放置しておく。
 自分なりの御洒落だ。
「よし、っと。」
 イメージ通りに髪を整えられた事に満足すると、次に手を付けるのは歯だ。
 青い歯ブラシにチューブタイプの歯磨き粉を乗せ、少量の水と共にしゃこしゃこと洗い出す。
 煙草を吸う俺だが、汚い歯は嫌なのと、匂いが残ってると不味いので、念入りに奥まで磨く。
 ぶはっと口を濯ぎ、カスや汚れが残ってないか確かめると、俺は歯ブラシを戻した。
 そして忘れていた丸眼鏡を鼻にかけ、俺は洗面室を出た。
 これで朝の支度は終わり、後は出て行くのみだ。
 時刻は七時十分前と言う所。
 銀誓館学園まで、歩いて余裕で間に合う時間だ。
 同じく歯を磨きにやって来た美代とすれ違いに部屋に戻ると、その辺りに放ってあるリモコンでテレビを付ける。
 ハンガーに掛けてある制服の上着を羽織ながら、耳だけで朝のニュースを観る。
 聞こえて来たのは、既に耳慣れた陰惨な事件。
 ばさりと羽織った上着のボタンを嵌めながら、俺は黙々とその内容を聞く。
 某月某日某所で何某が何某を……。
 時と場合によって種類はあるが、基本的には同じ様な話だ。
 聞くまでも無かった。
 ボタンを付け終える…上から幾つか外すのがポリシーだ…と、ぶつりと電源を切った。
 ヘッドフォンを首に下げ、鞄を抱えて居間に戻ると、既に準備し終えていた姉気が居た。
「はいどうぞ。」
 そう言って差し出したのは、青いナプキンに包まれた長方形二段の弁当だ。
 中身は知らない。開けてからのお楽しみだ。
「応、ダンケ、な。」
 ぱっと受け取ると、鞄の中に押し込む。
 姉貴は、やって来た美代にも赤いナプキンの同様のものを手渡した。
 これで後は本当に出て行くのみである。
「戸締りはしっかり掛けましたね?」
「相よ。」「ばっちり。」
 先に玄関で待っている姉貴に、美代と一緒に応えると、俺も向かった。
 とんとんと黒い紐靴を履くと、軽く床に叩いて整える。
 三人とも靴を履くと、くるりと振り返り、居間の棚の方に向き直った。
 置かれているのは、木製の写真立てに収まった一枚の写真。
 映っているのは五人の人間。
 黒い丸眼鏡を鼻先に掛け、山羊の様な顎鬚を弄りながら、パイプを咥えている豪快な男。
 豊かな黒髪を腰程まで伸ばし、ほっそりとしたシルエットが美しい妙齢の女性。
 その二人の間に居る三人の子供達。
 俺達は、その写真に向かって笑い掛けると、
「行って来ます。」「行って来る。」「行って来ます」
 三者三様の挨拶を言い、部屋を後にした。
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