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2007.01.21 帰還
 GhostTawn01 Azalea International Excange Center B F3
 ゴーストタウン。
 常識が消え、非常が罷り通り。
 温情が潰え、非情が跋扈する地。
 世界の外から降る銀の雨を浴びて、仮初の生を受けた死者達の巣窟。
 廃墟となり、人が途絶え、それ以外の何かが住まう場所を二人の青年が歩いて行く。
「結構長い間留守にしてたじゃねぇか旦那。どうよ、その間。」
 カッ、カッと黒のブーツを踏み締めて歩く。
 肩で切れた黒いロングコートに、黒の両手袋を纏ったその格好はまるで喪服。
 右肩に背負う無骨な黒い剣は、無数のチェインに牙を付けた繋鎖剣。
 柄に付いた機械の瞳は微動だにせぬが、金色の光で獲物を求めている。
 黒い髪を前に数束残して後ろに撫で上げ、その下の鼻先に紅い丸眼鏡を載せた黒い瞳もまた同様。
 鼻をひくつかせ、耳を研ぎ澄まし、目を絶えず動かして、新たな贄を探している。
 その様はまるで犬の如くであり、また現に彼はそれに肖った称号を持っていた。
 『紅眼の黒犬』
 青年の名前は塩森暁徒。
 銀誓館学園高等部一年にして、屍狩人と炎狐士の職に付く者。
「どう、と言う程でもありませんよ。周りは色々と動いていた様ですが。」
 彼の隣を、コツン、コツンと黒の革靴で歩む。
 概要としては白衣そのもの、しかしそこに十字を模した朱いラインが入るのは如何なる趣向か。
 黒のYシャツをラフに着込み、銅く淀んだ朱色のズボンを履いた姿は女の様だ。
 研究者或いは医者。若しくはそれを志望する者。更に言えばただの仮装者。
 白墨の柄に紅玉の刃を持つ小刀は妖しく光っているが、逆手に握ったそれを使いこなせるのかどうか。
 そう思わせる体躯に、だが軽く前に掛かる程度に切り揃えられた黒髪の下に輝く双眸は紛う事無き朱色。
 錆びた血の如きその瞳で、犬と同じく、新たな相手を待っている。
 だからだろう、彼に付けられた称号、それは、
 『紅の探求者』
 青年の名前は朱鴉詩人。
 銀誓館学園高等部二年にして、魔弾術士と魔剣士の職に付く者。
 暁徒の関係は、所属する結社『Laboratory』の団長と団員。
 本人達すらおぼろげだが、一応は先輩と後輩の関係でもある。
 二人は並んで、闇と埃に覆われた廊下を歩いて行く。
 足取りは軽く、そこが文字通りの死地である事を感じさせない。
 仲の良い男友達が、これから遊びに行こうとしている。そんな雰囲気だ。
「そんなものかねぇ。まぁ、あんた結構出て行くみたいだが。」
 す、と暁徒は懐に手を入れ、黒い煙草ケースを取り出した。
 とんとん、と指で口を叩き、一本取り出すと、ぱくりと咥える。
 右手は剣を持って塞がっている為、左手のみで器用に行う。
 元に戻すと、同様に左手のみでジッポを取り出し、シュボリと煙草の先に火を灯す。
 ふぅと味わう香りは濃厚に煙草のそれだが、口から仄かに感じるのはチョコレートの風味。
 勿論彼は未成年なので、本来ならば喫煙は御法度だ。
 だが、今この場においてそれを咎める者は誰も居ない。
 立ち上る煙を朱い眼で追いながら、詩人が応えた。
「そうですね。つい、ふらっと行きたくなるのですよ。」
「ふーん……他所に女でもいるのかい?」
 煙草を離しながら、暁徒の口元に灯ったのは、唇を吊り上げた哂み。
 詩人は、あはは、と笑いながら、
「そんなものはいませんよ。恋愛沙汰には興味無いのです。」
「あー、そりゃ白玖蛍が居るからかな?」
「何か勘違いしていそうですね暁徒さん。彼女はただの幼馴染です。」
 毅然として言い切る。
 その口調には、何らやましいものは無い。
「幼馴染、ね。そう言うのから普通発展するもんなんだが。」
「普通発展するかもしれませんが、普通じゃないですから。」
 暁徒はつまらなさそうに、そうかい、と零し、紫煙を吸う。
「その白玖蛍だが、存外に頑張ってた様じゃないかい。褒めてやったか?」
「代わりにお土産を。苺大福を上げましたよ……ただ、」
「ただ?」
 そう口を濁し、一泊置いてから、
「……勝手に牛乳配達されていました。体を大きくしろ、と。」
 私が居ない間の分はしっかり自分で飲んでいた様ですが。
「……あー、まぁ、彼女なりに考えてやってくれたんだろ。」
 遠い眼を浮かべて応える彼の肩を暁徒が叩く。
 幾分強めに叩かれたそれに、思わず咳き込む詩人。
「そ、そうですね。」
 自他ともに認める貧弱であった。
 はっはっはっ、と高笑いを浮かべる暁徒の、その脚がぴたりと止まった。
 苦笑いを浮かべていた詩人の顔もはっと強張り、眼前を見る。
 気が付けば廊下は途切れ、部屋の中に足を踏み入れていた。
 広い部屋だ。
 縦に敷居が成され二つ、その奥に見える壁で更に二つ、計四つに分かれた部屋。
 それが一体何を目的として作られたかは、最早定かでは無い。
 ただ一つ言える事。
 風の無かった部屋に、突風が吹き荒れ、何処からとも無く舞い上がった銀の灰。
 魔的な引力に手繰り寄せられ、集まったそれは、一瞬で形を成した。
 異形の者達。
 このゴーストタウンを支配する者達。
 暁徒等、能力者達の敵達。
 即ちゴースト。
 人の常識、想像をかけ離れた存在が、うようよと犇めき合っている。
 ちゃきり、と紅い眼鏡を軽く上げながら、暁徒は言った。
「なぁ旦那。」
 煙草を咥えた唇は釣り上がり、哂みを浮かべているが、眼は全く笑っていない。
「あんた、腕は落ちちゃいないよな?」
「そのつもりですよ。」
 小刀を後ろにかざし、ざっと右足を前に構えて、詩人が応える。
「あぁ解ってる。ここまではそうだった。だが、このオーラス。」
 暁徒の視線が、近くに迫る青褪めた少女、ゾンビガールに合わさる。
 口から煙草を外し、左手で摘み、そして、
「本当に鈍ってないか、見てやろうじゃ無いかいっ。」
 びしっとゾンビガールに向けて、煙草を弾いた。
 光無い瞳に、赤い点が移り込む。
 快音。
 無音。
 轟音。
 握り込まれた剣の牙が解き放たれ、一つの刃と化す。
 どんっと言う踏み込みと共に、左手の力で右肩から一気に放たれた剣。
 その刃が、煙草とゾンビガールを一瞬の内に粉微塵と化した。
 『魔王』
 そう名付けられた剣が、自らの由来を示した。
 それが合図となった。
 少女だった銀の灰が、辺りに拡散して行くと同時。
 悲鳴とも咆哮とも付かぬ叫びを上げて、ゴーストの群れが迫る。
「舐められていますね……いいでしょう。」
 迎え撃たんと構える暁徒の黒衣の横を掠める白い影。
 正に疾風。
 そこから放たれる朱い閃光。
 気が付けば、刈り取られた首から反吐を撒き散らすゾンビの姿がそこにあった。
 特殊な処置がなされているのだろう、反吐を浴びても弾いて行く白衣をはためかせ、
「これでも団長だと言う事、見せてあげますよ。」
 後方に向け、朱い刃を走らせる。
 豆腐に箸を立てた様な感触。
 背中の直ぐ側まで近づいていた、別のゾンビの胸に刺さる小刀。
 ざんと抜き放つ。
 倒れ行くその様をちらりとも見ず、目の前に迫る新たな敵に向けて腕を振るう。
 バックステップ
 だが、間に合わない。
 微かな、だが致命的な一撃を受け、銀讐少女の首から赤い噴水が巻き上がる。
 雫が白衣にぶち辺り、だがその白さは以前そのままで。
 返す刀を持つ手は真手。
 一瞬で握りを変えたその柄で少女を退かす。
 横に倒れる少女。
 それはただのおまけ。
 刃の腹を押さえ、少女が後ろに迫る蛇女に切り掛かる。
 艶かしい裸体に纏わり付いた蛇がしゃっと動く。
「シィィィッ!!!!」
 首を傾ける。
 僅かな動作、紙一重でかわした詩人の刃が蛇の大口から、体に向けて一気に走る。
 二つに別れて行く長細い紐。
 更に刃は女の体も通る。
 ずっ。
 何が起こったのか解らないと言う表情を浮かべながら、蛇女の上半身のみが床に落ちた。
 ひゅんと柄を返し、逆手で構える詩人。
 この間、一体どれ程の時間が掛かっただろう。
 恐らくは十秒も立っていない。
 眼に映るのはただ朱い閃光のみ。
 床に広がるのは、緋色の華。
 彼の手に握られた小刀『紅華』はその名を体現して見せた。
「やるね。」
 ひゅぅと毀れる口笛。
 歪な体をした鬼、雅鎖螺の豪腕を魔王で受け止めながら、暁徒は言う。
「俺も、うかうか、してられねぇっ!!!!」
 横蹴り。
 2m近くある雅鎖螺の体が、ゆらりと下がった。
 がら空きとなる腹。
「はっ!!!!」
 一つと化した無数の牙が、吸い込まれる様にそこに飛び込む。
 硬音。
 がきりとそれを受け止めたのは、刃物の如く太い爪。
 だが、無駄だ。
 ガリガリガリガリ。
 怖気る様な音を立てながら、魔王の牙が爪を侵食して行く。
 鈍く、遅く、だが確実に。
 雅鎖螺の口から悲痛な叫びが漏れる。
 のと同時に、五本の爪がごとりと落ちた。
 邪魔立てするのはもう何も無い。
 バキグシャグチャ。
 形容し難き音と共に、雅鎖螺の胴が両断された。
 その断面はお世辞にも綺麗とは言い難い凄惨なるもの。
 そこから噴出す血を一身に浴びる暁徒。
 黒衣に付着した血は流れる事無く染み込み、その黒さを増します。
「ま、ざっとこんなもんさ。」
 血で垂れた髪の毛を押しながら、暁徒は笑った。
「私の方が数が多いですよ。」
「数じゃねえよ質の問題さ。」
 ははっと笑って返す詩人。
 ぐるんと魔王を右肩に戻しながら、暁徒の側まで来ようとする。
 それがお互い、一瞬で離れた。
 後方へ向け、ダンと飛ぶ。
 二人の間、先程まで詩人が居た所にズザリと走る衝撃波。
 床に残る跡の先を辿れば、そこに居たのは、
「出たなボス。」
 恐らく中身は無いだろう、鎖に繋がれた青い西洋甲冑の騎士。
 『ブルーナイト』
 そう名付けられたそれは、アザレア国際センターB棟に巣食う魑魅の首領。
 文様の入った掘削機の如き槍を向けて、暁徒と詩人の二人に対峙する。
「ん……こいつを倒せば終わりですね。」
「あぁ、その通りだっ。」
 先に取り出したのは暁徒だ。
 魔王の刃を地面に傾け、走る。
 ブルーナイトが放った跡を魔王の牙でなぞりながら、走る。
 走る。
 走る。
 一気に走る。
 一気に走って、振り上げた。
 ブオンと降られる槍。
 チェインソーとドリルの対決。
 実際に回転している分、魔王の方が押しは強い。
 先程の爪と同じく、ガリガリと削られて行く槍。
 それを黙って見ている程ブルーナイトは弱くは無かった。
 空いた左手から放たれるブロー。
「ぐほっ!!!!」
 見事脇腹に命中。
 吹き飛ばされる暁徒。
 中を舞いながら、横へと飛んで行く。
 それと変わる様に、赤い火球が飛来した。
 炸裂。
 緋色の華が咲き誇り、ブルーナイトの左腕が根元から吹き飛ぶ。
「今度は私ですねっ。」
 白い影が走る。
 重心は低く、そして素早い。
 蛇行しながら進むその影は、とても眼で終えるものでは無い。
 見えているのか見えていないのか解らぬが、ブルーナイトの体が蛇行に合わせて左右する。
 だがとても付いて行けない。
 右を向けば左に。
 左を向けば右に。
 右を向けば、白い影は目の前に居た。
「取ったっ!!!!」
 逆手に降られる紅華。
 朱の閃光が、喉元を掠める。
 ガキィィィン。
 如何なる肉を切裂いたそれも、鎧を纏った身には浅過ぎた。
 ちっと舌打ちすると同時。
 ブォンと振り被った槍が、詩人の体を直撃。
 壁にぶち当たるまで飛ばされて行く。
 激突。
 ゲホゲホと咳き込みながら、毀れ出た血を掬い取って、
「流石に硬いですね。」
 迫る青い影を見る。
 その姿は満身創痍。
 左腕は捥げ、全身は煤と埃に汚れている。
 だがその無機質な面に宿った戦意は、見て取れる程に高い。
 殺人狂の成れの果てとされるブルーナイトの槍が、天井高く上がった。
 やられるっ。
「『童は見たり、野中の薔薇。清らに咲けるその色愛でつ』」
 声が響いた。 
 刹那。
 ブルーナイトの動きがギチリと止まる。
 地から伸びる鎖。
 それとは別に、炎で出来た茨がそれの体を絡め取った。
 もがく。
 だが取れない。
 いや、もがけばもがく程に、茨は青い鎧に食い込んで行く。
 ジャリジャリと鎖を鳴らして揺れるその姿は、蜘蛛に取られた蝶の様。
「へっ、俺が居なかったら危なかったな。」
 ぺっ、と口から血反吐を吐きながら、暁徒は左手を床に当てていた。
 そこから伸びる炎の茨は床を通り、青い騎士の下から出ている。
「何を言っているんですか。それを発動出来たのは、炎の魔弾と私のおかげですよ。」
 やれやれ、と言わんばかりに、埃を払って立ち上がる詩人。
 ブルーナイトへと近づきながら、ぴっと紅華を横に振り上げられる。
 握りは真手、それも諸手。
 後頭部まで振り上げられた朱の刃が、そこで止まる。
「まぁそりゃそうだがよ。」
 左腕に纏わり付く茨はそのままに、暁徒も立ち上がる。
 詩人同様、ブルーナイトに近づきながら、ブォンと魔王を上に振り上げた。
 無数の牙が咆哮を上げ、一つの刃と化す。
 後はただ振り下ろすのみ。
 ガチャガチャと暴れるブルーナイトを中心として、対岸へと並ぶ暁徒と詩人。
「まあとりあえずは。」
「終わりにするかね。」
 ブチリ。
 ブルーナイトを縛っていた拘束が途切れる。
 それを合図に。
 二つの刃が、十字を描いて交差した。

「『手折りて行かん、野中の薔薇。手折がば手折れ、想い出ぐさに』ってな。」
 有名な詩の一説を零しながら、暁徒は煙草を咥えた。
 槍を残して、銀の灰へと消えて行く、ブルーナイトであったものを眺めながら。
 やがて、その槍も灰へと変わり、いづこへと流れて行った。
 無論の事、これでブルーナイト、その配下の者達を倒した訳では無い。
 強い怨讐が銀の雨に触れて生まれたかの青い騎士は、その激しい感情が故に倒されても倒されても起き上がり、何時しか倒される事に恨みを覚え、最早この地が消えぬ限りは決して倒れぬ存在へと成り果てていた。
 やがて、先に倒したゴースト達は再び蘇り、別の誰かがそれを倒すだろう。
 永遠の生を死して約束された青い騎士。
 しかし、それでも今だけは、安らかな静寂が部屋を満たしている。
「久しぶり、でしたが……そんな変わっていない、でしょうか。」
 紫煙を肺腑に落とす暁徒の隣で、詩人が言った。
 グーパーと両手を握り締め、自らの腕を確かめる。
 その肩に乗る左手。
「充分じゃないかね、旦那よ。何だかんだでよ。」
 暁徒は、白く細い肩を軽く叩く。
 『旦那』と彼は詩人を呼ぶ。
 唐突に異国の話となるが、独逸では余り愛称、略称の類は使わない。少なくとも、亜米利加の様に、逢った先から愛称、略称で呼び合うと言う事は絶対に無い。もし愛称を呼ぶとすれば、余程仲の良い間柄に限られる。
 独逸で生まれ、その精神を受け継ぐ暁徒が、詩人を愛称で呼ぶのは、口では何と言いつつも、それだけ信頼していると言う証であろうか。
 叩く肩を見て微笑みながら、詩人は言う。
「そうですね。でも、背中の方はお任せしますよ。」
 応よ、と言いながら口元を吊り上げる暁徒は、はたと気付いた。
「そういえばまだ言ってなかった気がするぜ。」
 ん、と小首を傾げる詩人に向けて、彼はこう言った。
「お帰り朱鴉詩人団長。」
 行き成り畏まってそう言う暁徒に、詩人は少し驚き。
 だが、直ぐに微笑み、こう返した。
「はい、ただいまですよ。」
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