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2007.01.30 深淵
 今回は銀雨ことシルバーレインSS旦那ことうーちゃんより、名前からのお題を承ったので、書いてみる。

【し】深淵
【お】凹凸
【も】模索
【り】理由

【あ】悪癖
【き】近似
【と】特殊
 GhostTawn02 Hotel "The Strawberry Noble" B F2

 それは狩猟と訓練の為の戦闘である筈だった。

「はぁぁっ!!!!」
 卑猥なセンスに彩られた、赤いカーペット満ちる部屋に轟く気合。
 塩森暁徒は黒の繋鎖剣『魔王』を両手で握ると、けたたましい音と共にそれを振るった。
 ふよりと浮いていたホーリーゴーストの白い体が、ズンと両断される。
 分かれた体が地に落ちると共に、それは銀の灰と化した。
 すぅと消えて行くその姿を気に留める事無く、反転。
 喪服の如き黒いコートを翻し、腕を上へ回転。
 手首を捻って刃を下に向けた魔王を、一気に振り下ろす。
 ズグチャ。
 背後に居たゾンビホステスの頭が砕けた。
 泡だった灰褐色の脳漿が辺りに飛び散る。
 腐った水滴が鼻先に乗せた紅い丸眼鏡を過ぎて目に入り、一瞬暁徒の視界が歪む。
 その隙目掛け、横合いから白いワニが跳んだ。
 巨大な顎が暁徒に迫る。
 その瞬間、騒音と共に放たれた光弾。
 一発、二発、四発、八発、十六発、三十二発、六十四発……
 鼓膜が破れそうな音が途切れるまで最早閃光となった弾の霰は続き、ワニの体が中空を待った。
 頑丈な鰐皮が襤褸雑巾の様に引き千切れ、跡形も無く四散する。
「ふぅ……危なっかしいぞ、先輩。」
 そう言って現れたのは、暁徒の後輩にして同結社員の剣野勇奈である。
 彼女は軽い溜息を漏らしながら、じゃきり、と漆黒のガトリングガン『ラグナロック』を右肩に傾けた。
「んな事ぁ解ってるよ。」
 ぶすっと顔を顰めながら、暁徒は丸眼鏡をくっと上げた。

 ゴッ。
「がっ!!!!」
「塩森っ!!!!」
 勇奈の眼前を巨大な白い何かが通り過ぎる。
 暁徒の体を窓際まで吹き飛ばして止まったそれは、白い骨だった。
 形状は人間の腕のもの、しかし寸法は明らかに間違っている。
 ズッと引かれたそれを目で追えば、行き着いたのは白骨の巨人。
 恐らくは無数の人骨が合わさって出来たであろうそれは、未だ沢山の骸骨が覗け出る脚を踏み鳴らしながら、立ち上がった。部屋に対し聊か窮屈そうなその図体は、優に7メートルを超えていた。
 ジャイアントカルシウム。
 誰が付けたか、ふざけた名前に相応しい、ふざけた巨体を持つ巨骨は、カハァァァと風笛の様な息を吐いた。
 威嚇であろう。
「っ……にゃろめっ!!!!」
 ぺっと血を吐きながら、立ち上がった暁徒。
 魔王を右肩に掲げる。
 前屈みに走る。
 狭まる巨骨との間合い。
 一足一刀の距離に近づいた時、彼はドンと右足で踏み込んだ。
 左手を添えて振り被られた魔王が、無数の牙を一つの刃と化して巨骨に迫る。
 ヒュン。
 通り過ぎる黒刃。
 斬ったのは巨骨では無く虚空。
 予想に反した軽快なステップで巨骨は僅かに下がった。
 右回りに捩れる上半身。
 ブォンと引き戻され、加速した右腕が、
「ごっ!!!!」
 暁徒を顔から床に叩き付けた。
 陥没するカーペット。
 罅割れるコンクリート。
 弾き跳ぶ魔王。
 薄れて行く意識。
 バァンと海老反りに跳ね上がり、ベタリと横たわる。
 追い討ちを掛ける様に、巨骨の右脚が浮いた。
「このっ!!!!」
 一瞬呆けるも何が起こったか理解して、ラグナロックの銃口を巨骨へと向ける勇奈。
 その射線を覆い尽くす様に、幾体かのゴースト達が立ち塞がる。
「ちっ……。」
 銃身を抱きかかえ、引金を絞る。
 ガガガガガガと一つに列なった銃声が響き渡り、ゴーストの体を穿つ。
 踊る様に体を揺らす同胞を退かして、別のゴーストが突っ込むのを、ヒンと捌く。
 彼女の顔には、焦りがありありと浮かんでいた。
 敵の能力は然程問題では無い。だが、如何せん一人でこの数を倒すのは時間が必要だ。
 今の状況で一秒たりとも浪費出来る余裕等、存在する筈も無かった。
 ドンッ。
 銃声を一瞬かき消す程に、床を踏み鳴らす音が轟く。
「ごはっ……げひっ……。」
 巨骨の右脚が、暁徒の背中に圧し掛かったのだ。
「このっ退けぇっ!!!!」
 ブンと振り払い、巨骨に向けて銃口を向ける勇奈。
 だが、依然雑魚に遮られ、身動きが取れない。
「っ……ふ……ぅ……ぅぅ……。」
 重々しい息を吐きながら、脚の下で暁徒は腕を伸ばした。
 能力者である彼の身体能力は、常人を遥かに凌駕している。
 だが、相手もまた常軌を逸した存在であれば、そこに差異は無い。寧ろ相手の方が上手だ。
 肺を遣られたらしく、唇から血を零しながら、彼は側に落ちた魔王を掴まんとした。
 残り数センチ。
 震える指が柄に触れんとした時、彼の腕と魔王の上に白い拳が突き立った。
「がっ……!!!!」
 ズゥと持ち上げられたその下から、奇妙に捩くれた右腕と、砕け折れた魔王が共に姿を現す。
 どちらも、今この戦いにおいては使えないだろう。
 尤も、使う事が出来るのであらば、の話であるが。
 絶え気味の息の中、ちっと舌打ちしつつ、暁徒は巨骨を睨んだ。
「……がぁっ……はぁ……せっかち、だ、なかはっ!!!!」
 ズンと巨体に相応しい重量が、彼の背中に加わった。
 苦悶の声が滲み出る。
 その様を見下ろしながら、ガッガッガッと巨骨は歯を噛み鳴らした。
 明らかに哂っている。
 体はとうに危険域(レッドゾーン)。
 後ほんの少しでも体重を掛ければ、暁徒の体は押し潰されるだろう。
 だが、そうはして来ない。
 虫けらを嘲笑う様に、巨骨は手、いや、脚を抜いていた。
 畜生と。
 暗幕が脳裏を覆うとする中で、暁徒は思った。
 油断。
 脆弱。
 矮小。
 無力。
 そして自嘲。
 意識は既に深遠の淵に掛かっていた。
 嘲笑う高笑いが、遠くに聞こえる。
 耳元では代わりに、ぷつぷつと意識の糸が千切れる音が確かに聞こえた。
 体力ももう限界だ。
 スッと軽くなる(気がした)背中。
 それが意味するのは、奴が止めを刺さんと脚を上げたと言う事(だろう)。
 次の瞬間には、トンにも程近かろう重量が、俺の体をぷつっと潰す(筈だ)。
 嗚呼、これで終わりか。
 短い様で長かった(と思う)。
 それも次の瞬間にはおしまいなのだ……………本当に?
 本当にそうなのか?
 ここで諦めていいのか?
 こんな所で?
 あの骨野郎に一撃もくれてやってないのに?
 だったら最初から何もすべきでは無かった筈だろ?
 自分は、一体何の為に、ゴースト達と戦ってるんだ?
 そう思った瞬間、深淵の奥も奥から、紅い虚像が飛び込んだ。
 嗚呼、それは、正に最初、アノ日アノ時アノ瞬間ノ光景デ……

 ズゥンッ。
 重々しい音を立てて、巨骨は尻から床に落ちた。
「ぇ……。」
 銃身で猫女の鋭爪を受け止めながら、勇奈は音がした方を見た。
 そこには、満身創痍ながらも確かに両脚で立つ暁徒の姿があった。
 ワックスが抜けて、ダラリと下がった髪の毛からその表情は読めない。
 同様に、折れてダラリと下がった右腕からは、炎の茨が床へと伸びていた。
 茨は床を通り抜け、下を駆け巡り、そして巨骨の影から生えている。
 炎狐士(ファイアフォックス)の対象の束縛にのみ特化した術式技能(アビリティ)『フレイムバインディング』それも、現在三階級ある内の最上位にして『奥義』と呼ばれるものであった。
 強靭なる燃える茨は巨骨のその腕、その肩、その腰、その胸、その首、その頭に絡み付く。
 とぐろを巻いて更に絡み付く茨は、ギチギチと巨骨を床下に引き摺り込もうとする。
 カァァァァと強風が虚空の喉から絞り出た。
 全身を軋ませながら、巨骨はブチブチと茨を裂いて行く。
 ふぅ、と暁徒は小さく息を零しながら、右腕に集中。
 新たなるフレイムバインディング奥義が発動し、巨骨を絡め取る。
 片膝を突き、関節と言う関節の動きが完全に封じられて行く中で尚、巨骨は体を揺さ振った。
 二重の拘束が緩み、まだ動こうとする巨体を暁徒は睨んだ。
 巻き付くフレイムバインディング奥義。
 更に巻き付くフレイムバインディング奥義。
 更に更に巻き付くフレイムバインディング奥義。
 更に更に更に巻き付くフレイムバインディング奥義。
 更に更に更に更に巻き付くフレイムバインディング奥義。
 最初のを含めて計七発。
 許容量(キャパシティ)の限界まで活性化された八発のフレイムバインディングの内、一つを残して全て放たれた炎の茨は、巨骨の全身に巻き付き、纏わり付き、絡め付き、床へと縛り付けた。
 蠢く茨に包まれたその姿はまるで芋虫の繭である。
 紅い双眸が、それを見下ろす。
「凄いな……肉体凌駕か。」
 手間取っていた一匹に片を付け、ラグナロック片手に勇奈が暁徒の側に寄った。
 はぁ、と軽く息を吐きながら、彼はぼそりと言う。
「…ウナ…。」
「ん?どうした先p、」
「ユゥゥゥゥゥウウウウウウウウウウウナアアアアアアアアアアァァァァァァァァァそいつを寄越せええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!!!!」
 聞き取れずに聞き返した勇奈に向けて、怒声が飛んだ。
 ひっ、と彼女が怯える間も無く、その手からラグナロックがぶん取られた。
 銃身を左手で支え、右手で抱える。
 折れて使えぬ右手から、最後のフレイムバインディング奥義が、半身ごと手と銃身を縛り、固定する。
 人間、神々、巨人、果ては世界を滅ぼした最終戦争。
 その名を関した漆黒の銃口が、赤い繭へと向けられた。
 紅い丸眼鏡の下で、黒い瞳がきゅぅと細まる。
 そして、頭の芯を叩いて揺らす様な轟音が鳴り響いた。
 複数の銃口が列なった砲身が金切り声を上げて回転する。
 薄紫色に染まった光弾が、一条の閃光の様に繋がって放たれた。
「HAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!」
 銃声に負けじと喉を振り絞る暁徒の声は、人のそれとは程遠かった。
 至近、いやほぼ零距離で放たれる弾幕は、狙い誤らず繭へと注がれる。
 光弾が繭に当たる度に、紅い茨の欠片と共に、白い骨の断片が宙を待った。
 それすらも、紫の雨に撃たれて消えて行く。
 束縛が僅かに緩み、伸ばされて露と成った腕等は的以外の何者でも無い。
 重しとなって背を踏み付けていた脚が、青年から一気に老人と化す様に削げられて行く。
 空っぽの中身が容易に覗ける顔では、最早嘲笑の哂い等出来よう筈が無かった。
 代わりに、暁徒の怖気を催す哂いが木霊する。
「…ぱい、」
 幾重もの紫の閃光に染まりながら、彼は高笑いと共に引金を引き続ける。
「先輩っ!!!!」
「っ!!!!」
 漸くにして止まったのは、勇奈がひしとその右半身に抱き付いたからだ。
 右手を縛っていた茨が緩み、音も無く消えて行く。
 ドサリと床に落ちたラグナロックは、カラカラと惰性で砲身を回している。
 普通の銃器であればとうに使い物にならないだろう程に、それは赤く焼け焦げていた。
「……はぁ……はぁ……。」
「っと……。」
 同様に、疲労の余り倒れんとする暁徒の体を勇奈が支える。
「……終わってるぞ、とっくにな。」
 ゼェゼェと呼吸自体が苦痛である様な呼吸をする暁徒の耳に、そんな声が聞こえた。
 見れば、そこには何も無かった。
 残骸と呼べる様なものは、微塵も無い。
 ただ、黒ずんだ一帯が、そこに敵が居たのだと言う事実を伝えていた。
「……っ……。」「お、おいっ。」
 それを確認すると共に、暁徒の意識は完全に途絶えた。

 気が付けば、外は黄昏に染まっていた。
「……悪ぃな、油断した。」
「別に、大事無いなら問題無い。」
 ホテルいちご貴族の外壁に背中をもたれさせながら座り、愛飲する『ブラックデビル』を火も付けずに口に咥える暁徒は、膝を抱えて隣に座る勇奈に申し訳無さそうに言った。
 イグニッションを解いた為に、服装は戦闘服から制服に変わっている。
 しかし所所にありありと付いた裂傷に火傷、そして力無くへばる右腕はそのままだった。
 暫く、と言っても五日程だが、養生が必要だった。
「だが……最後のアレはらしくなかったぞ。何があった。」
「最後、ね……いや、別に、何でも無いさ……。」
 心配そうに覗き込んだ勇奈の視線から逃れる様に、暁徒は左手で丸眼鏡を押し上げる。
 実際、自分でも少し驚いていた。
 地金を晒したのは、最初の時以来である。
 それと同時に、怖くもある。
 先の敵に感じた愉悦の感情と、自らが抱いたそれは、驚く程に似ていたからだ。
 あのジャイアントカルシウムとやらが、元は何者であったのかは知らない。
 だが、恐らく本質的に、自分と彼(と呼ぶが)は似ているのだと思う。
 だから、怖い。
 もしかすれば、自分もあの様な存在へと成り果ててしまう可能性があるのだから……
「……おい、本当に大丈夫か?」
 突然、思考を遮った少女の声。
 ひょい、と丸眼鏡をずらしながら、勇奈の顔が覗き込んだ。
 一瞬虚を疲れた暁徒だったが、また一瞬後にはにしゃりと笑みを浮かべて、こう言った。
「大丈夫さ、ちょっと思い返してた所だったんだよ。」
「何がだ。」
「あんたが右腕に抱き付いた時の乳の感触をね。ありゃぁなかなか良かった。」
 うんうん、と頷く暁徒に、何の事かと訝しがった勇奈は見る間に顔を赤くさせながら、腕を振った。
 小気味良いパンッと言う音が、黄昏の空に響き渡った。
「っ……あんたなぁ、俺はこれでも怪我人なんだぞ。」
「ふん、それだけ元気があるのなら、問題あるまい。唾でも付けとけ。」
 ざっざっと背中を向けて帰らんとする勇奈の後を、暁徒は右頬を摩りながらひょこひょこと付いて行く。
 そう。
 可能性はあるだろう。だがそうはなるまいと思う。
 自分の周りには、彼女の様な存在が、ありがたい事に両手の指程度には居るのだから。
 仮に、あの様な存在になったとしても、引き止めてくれるだろう者達が。

 深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いている。
 されど、覗く者も、覗いている者も、深淵だけでは無いのだ。
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