上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
2007.02.05 理由
【し】深淵
【お】凹凸
【も】模索
【り】理由

【あ】悪癖
【き】近似
【と】特殊
 屋上は、学校やマンション等のあらゆる建物の中で、一種特別な場所である。
 その場所は、建物の中に含まれながら、屋根は無く、外に面している。遠くから世界を、山頂の如く見下ろす事が出来る。その開放感から、デパートの屋上では縁日の様な様相で買い物に疲れた人々が集い、色々な食べ物が売られ、学校やオフィスでは、昼休みともなれば、弁当を抱えた者達が現れ、仲の良い友達と和気藹々と、或いは一人淡々と贅沢な孤独を楽しむのである。
 ただ、立ち入りを禁止している所もある。馬鹿は高い所が好きなのである。その意味でも特別だろう。
 銀誓館学園の校舎屋上もまた特別であったが、それはただ単に憩いをする為に、と言う訳では無かった。
 一言、いや二言で言えば、工場であり、また道場であった。
 局地的に世界結界が歪んでいるのか、シルバーレインが降る空と近いからか、はたまた内部でありながら外部でもある特異性からかは解らぬが、本来地面から伸びていなければ意味を成さない温度を測る器具たる百葉箱が設置され、現に機能しているそこは、能力者達の技能(アビリティ)習得に職業変更(ジョブチェンジ)、彼等へ力を与える武具『詠唱兵器』の精製、強化等を行う事が出来る場所であった。余談だが、百葉箱自身錬度(レベル)の低い何らかの詠唱兵器を本人の意思に関わらず精製…代償として、自らの運勢が使われる、と言われている…する装置でもあった。
 その中央に立って、天を仰ぐ者が一人。
 塩森暁徒だ。
 後ろに撫で上げた黒髪に、数束残した前髪がひゅろひゅろと風に揺れている。鼻先に乗せた紅い眼鏡の下には、切れ長の黒い瞳が、僅かに開いて抜ける様な青空を捉えている。服装は男子高校生用の列記とした制服。ただし胸ボタンはしっかりと止められておらず、上から二つ目の辺りで、紫色のTシャツが垣間見えた。
 そして彼の右手には、銀の装飾が施された札…詠唱兵器及び能力者の力を携帯用に、また日常生活に置いて支障が出ない様に札の形として封印された『イグニッションカード』だ…を二枚、重ねて握っていた。一枚には柄がかなり長い大の姿、もう一枚には剣の如き柄の付いたチェーンソーの姿が描かれている。
 今彼が行おうとしているのは、詠唱兵器の合成であった。
 正確に言えば、それは強化である。二つの詠唱兵器を合成して新たな詠唱兵器を生み出す、のでは無く、片方の詠唱兵器を素材とし、もう片方の詠唱兵器に合成して、それを強化するのであった。
 暁徒は、二枚のイグニッションカードを握りながら、すぅと深呼吸。
 両眼を閉じると、その視線を天では無く、己の内側へと向ける。
 合成の元にするのは、チェーンソー剣の方だ。
 その存在を知ってから、エモノはこれにしようと決めていた。
 幾多の職業の中で、屍狩人(ゾンビハンター)を選んだのは、能力的にそれを装備出来る唯一のものだから。
 何が良いのか、と言えば、まずその機構である。
 鎖を高速で回転させる事により、触れただけで肉を抉る凄まじき刃と成す。
 ゴーストと言う超常的存在を相手にするには、それ位の威力が無ければなるまい。
 また、斬るでも、断つでも無く、抉る刃であれば、喰らう苦痛も…痛覚があるとすれば、だが…相当である筈だ。少なくとも、与える方としては幾分か気が安らぐであろう。
 機構だけで無く、剣と言う存在に含まれる外的概念もまた、良い。
 古今東西を問わず、剣は何らかの信念の証として、重要視されて来た。
 ゴーストを狩る、愛する者を護ると言う信念を示すのに、これ程最適な武器は他にはあるまい。
 だからこそ、このエモノはより大きく、力強いものでなければならない。
 自分ですら扱い切れるか不明な程に。
 ゴーストに感じるかも解らない恐怖すら感じさせる様な恐るべき存在に。
 ともすれば奴等と同じ様なものとして。
 そう考えながら、暁徒はぐっと右手に力を入れた。
 二枚のカードはくしゃりと潰された。
 と、同時に、そこから銀の炎が吹き上がる。
 一瞬…等と言う表現より速く…カード達は灰と化し、炎に飲まれる。
 彼の右手の中で、ゆらゆらと銀の光が蠢く。
 熱さも痛みも感じずに、暁徒は更に思考を進める。
 だが、と。
 あくまで同じ様な、であり、同じであってはならない。
 少なからずの大義名分が無ければ、俺に奴等を狩る資格は無い。
 その機構と精神は恐ろしくとも、確として剣で無ければならない。
 人の知恵と技術が造り出す、機械の剣だ。
 そら感じが出てきたぞ。
 瞳を瞑る暁徒の口元がくっと釣り上がる。
 その右手に、ずしりと重みを感じる。
 詠唱兵器はそのイメージによって形態を変える。
 暁徒の想念を受けて、不確かな炎は、確たる剣へと変わろうとしていた。
 しかし、炎から剣に変わろうとしていても、銀である事はまだ変わっていない。
 最後の焼入れが必要だ。
 脳裏で形を成し始める剣、まだ銀に輝いているそれを、黒く染め上げる。
 黒とは玄だ。
 即ち熟練、熟慮の色。
 故に他のどの色にも染まらない色。
 と、言うのは誇張としても、その片鱗を残し続ける色。
 何時までも何処までもその『我』を通さずにはいられない色。
 俺が好きな色。
 すぅと暁徒が眼を開けた時、その右手には彼が想像した通りのものが収まっていた。
 刃渡りは九十センチ程、全体としては一メートルを超える、片刃の繋鎖剣だ。銃を思わせる引金が柄に取り付けられ、鍔には詠唱兵器に付き物である魔力増幅用の動力部が、基本形である筒状から球状に変化している。そこに描かれた金色の文様は、形状と共に眼を思わせる代物だ。先端を丸くし、内側の、それも片側だけに付いた鎖には、ジャラジャラと牙の如きものが取り付けられていた。引金を引けば、これが勢い良く剣の中を回転し、恐るべき刃と化すだろう。
 そして何よりその色は、黒であった。柄も鍔も鎖も、全て黒であった。
 冬の陽光に剣を掲げながら、暁徒はその出来に歯を見せて笑った。
 そして、己が造り出したその剣に向かってこう言った。
「よぉ相棒。お前に名を付けてやる。」
 お前に相応しい名を、と言って一呼吸告げた後、続けて呼んだ。
 蒙昧に攻め、傲慢に支配し、何処までも追い詰める魔の如く、それを滅する王であれと言う意味を込めて。
「『魔王』(Erlkoenig)……だ。良い名だろ?」
 魔王と呼ばれた剣は何も答えず、聳え立つモノリスの様に、暁徒の顔に影を落とし込んだ。
スポンサーサイト
Secret

TrackBackURL
→http://tasogaremignon.blog79.fc2.com/tb.php/230-9853e548
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。