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2007.02.07 悪癖
【し】深淵
【お】凹凸
【も】模索
【り】理由

【あ】悪癖
【き】近似
【と】特殊
 それはもう何時の頃か、定かでは無い。

 ゴンッ。
「いっつ~~~~!!!!」
 漫画から辞書まで何でもござれの書斎に、鈍く大きい音と、痛みを堪える少年の叫びが響いた。
「全く、何やってんだお前。」
 少年の脳天に突き立てた右手をぶらぶらと振りながら、前髪を少し垂らしたオールバックの黒髪に黒い丸眼鏡の男は、拳骨を入れた瞬間に少年の手から離れて地面に落ちた物をひょい、と掴んだ。
 木製のパイプだった。中に煙草は入っておらず、付近にはマッチやライター等火を付けるものは無かったが、
少年が開けようとしていた戸棚にそれらが入っていると言う事は、部屋の主である男には良く解っていた。
 男は少年を…自らと瓜二つである息子の顔を見下ろしながら諭す様に告げた。
「駄目だろ勝手に他人の部屋に入っちゃ。しかもこんなものまで取り出して。」
 少年は、涙目で黒髪をくしゃくしゃと撫でていたが、軽く俯きつつこう言った。
「…吸ってみたかったんだよ…。」
 その言葉に、ふむと男は軽く息を吐きながら尋ねる。
「何で吸ってみたかったんだ?」
 少しの間口を摘むんだ少年は、口をへの字に曲げて言った。
「……格好良かったから。」
 誰が、とは言わなかったが、その言葉に含みを感じ取ったのだろう。
 男は軽く笑いながら、少年の髪の毛をくしゃっと撫でた。
「こいつはな、体に良く無い代物だ。周りの人にも迷惑を掛ける。」
「でも親父は吸ってるじゃないかい。」
 首を上に向けて、こちらを見つめる少年に、男は撫で続けながら、こう言った。
「それは、俺が大人だからだ。」
「大人?」
 少年が軽く眉間に皺を寄せる。
 男はああ、と笑って言った。
「誰に…自分以外に迷惑を掛けない、自分の行動に責任を持てる人間を、大人と言う。俺は自分の力でこいつを買って、好きでこいつを吸っている。健康に悪い事はちゃんと解ってな。吸う場所もちゃんと選んでいる。そう言う事が一人でもしっかり出来る人間を、大人と言うんだ。お前はまだちゃんと出来ないだろ?」
「出来るっ。」
「背伸びなくてもいいのかい?」
 がっと叫んだ少年だったが、最後の一言にはうっと声を詰まらせるしかなかった。
 ぽん、ぽん、とその頭を叩く右手。
 少年は、むぅと納得行かないと言う顔で、呟いた。
「だったら大人って奴になってやるよ。」
 と。

 そして、
「そうさ……俺はもう大人、だよ親父。」
 鎌倉郊外に聳え立つ五階建てのマンション、その三階がとある一室のベランダ。
 塩森暁徒は、紅い丸眼鏡越しに沈み行く夕日を眺めながら、そう呟いた。
 口には黒い煙草、彼が愛飲する『ブラックデビル』が甘ったるいフレーバーと共に紫煙を立ち昇らせている。
 ふぅ、と口を離し、煙を吐き出しながら、銀の灰皿に灰を落とし込む。
 彼が煙草を吸い始めたのは、父親が亡くなって間も無くであった。
 最初は喉も苦しく、目も瞬いたが、今では手放せないものとなっている。
 勿論健康には良く無いが、その辺りは納得付くで吸っていた。背が伸びなくなると言う事も含めて。
 当然、時と場所にも気を使って吸っている。最低でも、人を気にしないか、気にしない人の場所で。
 そう、自分は大人なのだ。
 親父やお袋が居なくとも、やって行ける人間なのだ。
 少なくとも、そう錯覚出来る程度には。
 法的に喫煙は悪だとしても、しかし彼にとってはそう証明するに足る行為だった。
「暁徒ちゃーんご飯ですよ。」
 和葉の声が背後から聞こえてきた。
「あぁ直ぐ行くさ。ちょっと待っててな。」
 暁徒は、ぎゅっと煙草を灰皿に押し付けると、それを持ってベランダを後にした。
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