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 「所であなたは、神を感じた事はありますか?」
 先月と逆転したかの様な寒さが漸く終わりを向かえ始め、照り付ける光も暖かな三月の午後。
 ゴシック調の意匠が施された、コンクリート製の比較的新しい教会の前に広がる小さな庭。
 芝生等と言う結構なものは無いが、それでも雑草等と言う厄介なものも無い、適当に手入れされたその庭にて白い机と共に出された白い丸椅子に座りながら、金髪黒眼のシスター、塔間・A・久喜は、机を挟んで前に居る客人、塩森暁徒に向けて尋ねた。
「何だいお久喜さん。宗教勧誘だったらお断りだよ。俺にそんな信仰心なんて無いからね。」
 くっと口元を歪めながら、暁徒はそう返した。
 彼は今日、己の師匠と呼ぶべき存在、久喜より、新たな『ヘリオン』の力の使い方を教わりに来たのである。
 と、言っても、前の様に学校をサボった訳では無い。今日は日曜日で、彼の格好も黒い私服姿だ。
 休日を返上して教会にやってきた理由は先程述べた通りであるが、しかし久喜は一向に教える気配が無い。
 お茶でも飲みましょう、と庭に椅子と机を出し、本当にお茶を出して来たのだ。
 そして既に小一時間。
 能力云々には一切触れず、一言二言世間話程度の会話をしながら、二人はそうして茶を啜っていた。
 尚、久喜はミルクたっぷりの紅茶であるが、暁徒は真っ黒、砂糖もミルクも塩すら入っていない珈琲である。彼は紅茶を飲む事が出来なかった。渋過ぎると言うのがその理由である。紅茶を出そうと考えていた久喜からは「苦いのが良くて渋いのが駄目とは、舌が麻痺しているのでしょう。」と言う苦言が漏れ出たが、前回の遣り取りで彼女の性格が解って来た暁徒は特に反応せず、それでも素直に出された珈琲を素直に啜るった。
 そんな中でふいに出された今回の趣旨とは関係無い質問に、彼は彼女の心意を読み取れず、修道女然としたその発言に思わず苦笑いを浮かべて応えたのだが、彼女の方は逆で、正にそれが最も重要な事であるかの如く、ゆっくりと首を横に振った。
「あなたの様な人間を勧誘し、改心させる程、私は暇ではありません。」
「……あんたの尋常じゃない観察眼やら何やらは関心するが、もうちっとマシな言い方は無いのかい。」
 まぁその通りだがね、と底知れぬ黒を湛えながら湯解立つ珈琲を啜りつつ、暁徒は言った。
 久喜はその言葉を華麗に聞き流し、更に続ける。
「私が言っているのは神を信じているか、ではありません。神を感じた事はあるか、です。ここで言う神とは、私達の宗教におけるソレで無くとも構いません。自分を遥かに超えた、霊的な『何か』の気配、とでも言えばいいでしょうか。そう言った存在を、何時でも何処ででもいい、感じた事は、ありますか?」
 流暢に語り終え、彼女はすっとティーカップを口元に寄せた。
 ごくりと飲み干す暫しの間、黒い水面に映る自分を見ながら、暁徒は思考する。
 そして、口を開いた。
「あるね。いや、無い人間なんていない。もし居るなら、そいつは人間じゃないだろうな。」
 淀みなくそう発せられる言葉は、短い間に考えたにしては力強く明確なものだった。
 恐らくは、以前からその様に考え、感じていた為であろう。
「あなたらしい台詞ですね。そう、それです。」
 カップを薄い唇から離しながら、久喜は僅かに笑みを湛えながら応えた。
 更にん?と首を傾げる暁徒に向け、生徒を教える教師さながらに、答えを紡ぐ。
「あなたが、人間であるならば誰もが感じる、と言った……それこそが私達が行使する『光』に他なりません。それ自体をこうと認識する事は出来兼ねる…今自分の眼は、何かモノを見ていると思いこそすれ、『光』を見ているとは思わないでしょう?…ものですが、しかし誰もがそれを、感じている。世界に満ち溢れる『光』を……今この瞬間ですら。私はそれを神と認識してますが、他の人も違う言葉で認識している筈です。あなたも。」
 そこで彼女は大仰に両腕を伸ばした。
「成る程、ね。」
 久喜が言いたい事を察し、暁徒は辺りを見回した。
 大気は少々風が吹くも穏やかで、天には雲が、ゆったりと空を泳いで行く。
 大地では適度に緑と土を、更に眼を凝らせば、早咲きの花の色彩も見る事が出来る。
 それらを見せている『光』を眼で捉える事は出来ないが、しかし確かに『光』がある事は感じられた。
 心の中で感嘆しながら、暁徒は久喜を見た。
 彼女は微笑みながら、その視線を眼で受け止める。
 見えざる光を通して、二人の意思が伝播する。
「それじゃそろそろ、始めないかい?」
「それではそろそろ、始めましょうか。」
 ほぼ同時に発せられた言葉に、暁徒と久喜の口元に笑みが宿る。
 その唇にカップを近付け残っていた茶を一息で飲み干すとすっくと立ち上がる。
 そして傾き始めた、それでも尚輝く太陽を背に、二人は教会の中へと歩いて行くのであった。
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