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 つまりこうですか、と、塔間・A・久喜は電話に向けて言った。
「予定通りに奈良についた貴方は、体力温存の為に正午過ぎより戦闘に参加。敵の本陣が一つに当たる土蜘蛛屋敷に向かうもあえなく返り討ちに合い、重傷の末温泉に浸かっている、と。昨日あれだけ大見得切って。」
「うん、まぁそーゆー事になるかな?」「馬鹿でしょ貴方。」
 奈良山中にある天然温泉露天風呂にて、体中に包帯を巻き込んだ痛ましい姿の塩森暁徒が、今日の土蜘蛛戦争の己が活躍ぷりを携帯電話にて久喜に伝えた折、返って来た言葉がそれであった。
 土蜘蛛の女王こそ取り逃し、未だ多くの戦力が葛城山に潜伏中であるものの、撤退させたと言う事においては一応の勝利であり、学生達は今日の戦いの疲れを癒し、勝った事を噛み締めるべく、学校側が用意した貸切温泉を楽しんでいる。
 だが全体の結果と、個人の戦果は必ずしも同じではない。
 暁徒の様に重傷を負った者達も多くいれば、若い命を散らしていった者達も居る。
 火の付いてないブラックデビルをぴこぴこと口に咥え、岩の影から水着姿の生徒達がばしゃばしゃと歓声を上げながら湯に浸かっているのを眺めながら、酷い事を言う、と苦笑気味に応える暁徒に、久喜は溜息。
 そして直ぐ後に、
「……命に別状は無いのですね?」
「勿論。帰って来るって言っただろ?」
「……なら良かった……。」
 そう、安堵の吐息を零した。
「あぁ、所で、さ。」
「はい?」
 煙草を口から離し、電話越しにも関わらずすっと真顔になりながら、暁徒は久喜に言った。
「あんたが言った事の話だ。敵を理解しろ、って奴。」
「……出来ましたか?それとも出来る暇も無く?」
 久喜の声もまた真摯なものとなる。
「斬るまでは行かなかったがね。怪我して、余分な血流してさ。凄ぇ覚めた感じで、外から戦場を、土蜘蛛の連中を見てて思ったのさ、『嗚呼こいつらも必死なんだ』ってな。俺達が痛いのが嫌、死ぬのが嫌な様に、こいつらもそう言うのが嫌で戦ってるんだな、と。」
 暁徒の脳裏に浮かぶのは、恐るべき数を持って襲い来る鋏角衆達。
 彼は、土蜘蛛関連の依頼に参加した事は無い。
 だからこそこの度初めて合間見える事となった。
 そこで彼が感じたのは、結局の所土蜘蛛も存在を欲する、つまりは生者である事だった。
 メガリスの効果が無ければ死んでいたと言う状況。
 しかしそれ故に、覚めた感覚として見る事が出来たのかもしれない。
「……憎しみは消えましたか?」
「それは、無い。あいつらは憎いね。」
 久喜の問いに、紅い丸眼鏡を上げ、視界を赤に染めながら暁徒は応える。
 その唇の端を軽く押し上げながら、
「でも、だからって何も鼻から戦う必要も無いんじゃないかな、とも思った。俺等もあいつらも、血を流して頭ん中少しは覚めてるだろ。だから、上手く手打ち出来ないかな、ってね……葛城山に親玉含めて残党が潜伏してる。殲滅か否か、で意見が二分してるんだが……俺は、否(Nein)を選んだよ。」
「それだけ解れば充分です。今の貴方は、ヘリオンの名に相応しい。」
 暁徒の答えを聞く久喜もまた、母が子を想う様な微笑みを浮かべて応えた。
「あぁ、それもね。戻ったらやってもらおうかと思うよ、ジョブの転換。」
「承りました……しかし。」
 最後の言葉に、ん?と暁徒は怪訝そうに眉を潜める。
「特訓の方も、力を入れないといけませんね。」
「て言うと?」
「今回の戦いで痛感しました。貴方に一番足りないのは体力です。能力者だからと言う理由で基礎を疎かにしたのは私のミスでした。とりあえず、戻って来たら鎌倉市内一周でもしてもらおうかしら。」
「おいおい、そりゃきついぜ。」
「きついから駄目なのです。きつくなくなるまでやりますよ。」
 声だけで表情が解りそうな、暁徒の抗議の言葉を、久喜は容易く一蹴。更に、
「それから煙草の方も止めて貰います。」
 げ、と言う声が、意図せず暁徒の喉から毀れ出た。
「……教会じゃ吸った事無かったんだがなぁ。」
「匂いが染み付いてますよ馬鹿。まぁ目の前で吸わなかったから多少眼を瞑ってましたが、もう許しません。悔い改めなさい……まさかと思いますが、今吸ってないでしょうね?」
 暁徒はぬぐぅと言葉を詰まらせ、右手に握った煙草を懐の箱が中に仕舞い込みながら呟く様に言った。
「……善処するさ。」
 嫌々ながらも一応は本心からの言葉だった。
 久喜は満足そうに頷いた。
 そして最後に、
「宜しい。それでは……帰って、無事な顔が見られる事を楽しみにしていますよ。」
「ん。明日には帰って来るさ。そしたら、嫌って程この顔を見せてやるぜ。」
 彼等らしい台詞を言い合うと、二人はがちゃぴっと電話を切った。

「……。」
 飾り気も、人気も無い部屋で、久喜は電話を定位置に置いて尚、受話器を握ったままでいた。
 暫くたった後、彼女はぽつりとこう言った。
「……良かった。」
 ふぅ、と吐息を漏らしながら。
 改めて、無事であった事実を噛み締めるかの様に。
 そして薄っすらと浮かぶ微笑み。
 帰って来てからどうしてやろうかと、その黒い瞳が楽しそうに語っていた。

「さ、て。」
 携帯電話をポケットに戻しながら、暁徒は温泉の方を見た。
 能力者は、どの様な重傷を負おうが、世界からの修正だろう、五日で回復する。
 それでもその間重傷であるのには変わりなく、また怪我と疲労は別物だ。
 戻ってからの大変さを思えば、ここで少しでも体を癒して置くのが得策である。
「んじゃ、俺も行くとしますか、ね。」
 そう言いながら彼は温泉の方へと歩いて行った。
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