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 興奮している、と最初に言っておく。この物語を半日程で読み終え、自分は酷く興奮している。
 それを知ってもらった上で、あえてこう叫ばせて貰おう。

 これだっ!!!!

 これなのだっ!!!!

 自分が読みたかったのはっ!!!!

 自分が書きたかったのはっ!!!!

 真にこの様な小説なのであるっ、と!!!!


 胸中に溢れる感情を文字として吐き出した事で落ち着いた今、冷静に感想を述べよう。

 この作品は、余りにも有名過ぎるが故に実際読んだ事のある人間は知名度の割りには少ないだろう最早古典作品『吸血鬼ドラキュラ』のその後の世界を描いた話である。こう言った設定の作品は数多く在るだろうが、まずその根底が他の諸作品とは大いに違う。

 吸血鬼ドラキュラは、宿敵ヴァン・ヘルシング教授に滅ぼされず、逆に彼に打ち勝つのだ。自分に挑みかかった愚かな人間の首を取り、串刺しにした彼は女王ヴィクトリアと結婚、英吉利の支配者となるのである。

 この魅力的な世界観の中、現実に実在した人物、虚構に実在した人物が多数登場する。名前だけの者も多数だが、そうで無い者もまた多く、総じて実に95%の人物が過去の歴史や作品より取られており、本の末尾に人名辞典が設けられる程だ。

 有名どころを上げれば、ベーカー街221Bに住む最高の探偵は政治犯として捕らえられ、彼の兄とその宿敵はちゃっかり吸血鬼と化し、依然それぞれの陣営の重要な立場についている。ハイド博士はモロー博士と共に吸血鬼の研究をしている、と言う様な按配だ(他にもレスタトには笑った)。正直、余りにも多くの作品から引用されている為にその全てを把握する事等到底出来ない。固有名詞が出る度に人物辞典に飛んでいる有様だ。恐らく、全部を理解出来るのは、余程コアな人々であると思われる。そして、そう言った人程この作品は楽しめるだろう。

 そんな彼等が霧の都・倫敦を舞台に目まぐるしく駆け回り、消えて行く。三人称の一見無味乾燥した、それでいて心情も入れられた文体は噛み応えがあり、まるで上等な映画を見ている様に章立てられたそれは、その場面をありありと脳裏に浮かび上がらせ、綴られた者達の活躍が、荒唐無稽とも取れる物語に神秘的な現実感を与えてくれる。

 更に忘れてはならないのが吸血鬼の娼婦ばかりを殺す切り裂きジャックを追う二人の主人公、闇内閣(ディオゲネス・クラブ)の諜報員チャールズ・ボウルガードと齢四百七十二歳にして永遠の十六歳たる吸血鬼ジュヌヴィエーヴ・サンドリン・ド・リール・デュドネだ。

 この二人のキャラクター性は(多分に自分の個人的趣向があるけれど)大変に魅力的である。と、同時に、この二人の主人公の関係こそ、コロンブスの卵的逆転の世界観に多数の素敵な人物の登場以上に、この小説、物語の根幹を成すものである。

 目くるめく架空の倫敦で、共通の事件を追って行く間に出逢った二人は、霧の中殺人鬼の影を追って行く内に、互いに少しずつ惹かれて行き、そして遂にその愛を確かめ合う。だが所詮人間と吸血鬼、同じ時を生きられる訳では無い。ボウルガードが吸血鬼となれば、共に永遠を生きられるだろうけれど、だが人間としての尊厳、吸血鬼の生物としての不具合等が故にそれもまた出来ないのだ。

「永遠にこのままでいたいわ、チャールズ。真の永遠に」
「永遠に続くものなんて、何ひとつないんだ――」


 終盤語られるこの遣り取りの、何と切ない事か。ここに至る過程が非常に丁寧に書かれているからこそ、(我ながら、実に良く踊らされているとは思うが)読む者の心に響くのである。そしてそれは彼等と敵対する切り裂きジャックやあの人と対になっているのだ。故に今作は(チープな物言いだが)愛の物語と言っても全く差し支えあるまい。ヴィルヘルム・マイスターとミニヨンの物語然り、グスタフ・フォン・アッシェンバッハとタッジオの物語然り。この偏屈な魂をどうしようもなく惹き付ける愛が、この物語には詰まっているのだ。

 まぁだがしかし、

「チャールズ、あなた、わたしをブラッドハウンド代わりに使っていらっしゃるの?」
「そうみたいですね。気になさいますか?」
「ウー、ワンワン」


 には、別の意味で非常に惹かれたがな。本当にこれは英国人作家が書いたのかと(最初の世界観からしてだが)大いに疑ってしまった。作者のキム・ニューマンは実に良く解っているな(ウォーハンマーTRPGのリプレイ本を書いている事を考えれば、ある意味当然か)と唸らずにはおられない個人的名場面だ。

 さて、ここまでべた褒めして来た今作だが、惜しむべき事に、既に絶版である。今これを読めているのは、友人の案内で赴いた文芸サークルの蔵書の中に偶然見つけたからで、駆けずり回った古本屋や図書館には遂に見つける事が出来なかった(今度、銀雨の友人が確保してくれた事により、★を通して今作は入手する事が出来る。その友人はまた今作を紹介してくれた者でもある。心の底から感謝の意を示そう)本当に惜しい限りだ。

 もしこの記事を読む人が今作『ドラキュラ紀元』を何処ででも良いから見つけたならば、真っ先に確保する事をお勧めしよう。(ここを見ている様な人達であれば)絶対に面白い物語が綴られている。是が非でも一読を。

 尚、今作の続編に『ドラキュラ戦記』『~崩御』がある。これについてはまた改めて語るとしよう。

 まず持って文字数が足りないから。
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