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 第二十三章第二十四章 少女思想機械はかく語りき
 この後に彼等がした事を、今あえて語る必要はあるまい。
 何故ならば、ノイラ・エディソンの人工頭脳がこの事件を解析したからだ。
 三年近くに渡る怪奇、ドッペルゲンガー事件。
 その解も、そこへと至る式も。
 全ては彼女の薄い唇から紡ぎ出される言葉が教えてくれるだろう。
 故に読者である紳士淑女の方々は、暫しの間黙ってお聞きして頂きたい。
 僅かで短くも芳醇な時間の中に置いて。
 知識と経験、そして愛する者を得て成長した少女思想機械の推理を。

「思えば私、ノイラ・D・エディソンが彼、アレックス・ボールドウィンと出会い、この事件に関わってから、まだ一週間も経っていないのですね。でも私は、遥かに長い歳月を送って来た感じがしています。それは彼と共に事件を解決しようと奔放したこの数日間が、とても濃厚で、充実したものであったからでしょう。
 無為にただ長い時を過ごすよりも、短いですが意味のある素晴らしい時間であったから、と。
 その点では私達を結び付けてくれたこの事件に感謝の言葉を送りたい程です。ですが、この事件の所為で、犯人の所為で多くの者達が死に、そして残された者達は哀しみと、寂しさと、怒りを覚えました。
 言動は知っていても、私はそれらが何であるのか解りません。ですが、感じる事は出来ます。それは私の意志を全身へと伝える神経糸を締まらせ、その動きと力もまた伝える歯車を鈍らせ軋ませる様なとても辛いものです。
 だから私は、この事件を、そこにある謎を今ここに解決したいと思います。
 謎、と言いましたが、この事件にある謎は実の所一つだけです。
 もう解り切っているでしょうがあえて言いますと、それは一人の人間が、同じ時間に、別の場所で目撃されていると言う謎です。それ以外は、嘆かわしくもこの帝都の、この帝国の、いえ、この星の何処にでも見られる強盗殺人……僅かなお金を得る為に命すら奪って行く卑劣な犯罪に過ぎません。
 ですがその謎が、怪異がこの事件を特異なものとし、ドッペルゲンガーと呼ばれて長い間解決を拒んできた。
 犯人は、その本体が知らぬ間に抜け出した二重幻影だとでも言うのでしょうか。
 そう言う保因者(キャリアー)が居るのだと?
 いいえ、違います。
 答えはもっと非常識な、そしてありえないものでした。 
 それはこの科学時代に相応しい驚嘆すべきものであり。
 そして、私と彼はその神秘の存在に遂に到達したのです。
 今アレックスに代わり、私がその謎を解き明かしましょう。
 さて……その為に、最初に二重幻影が現れた、サイモン・ピアースさんの事件に立ち戻らなくてはなりません。
 単純な事件の中に唯一絶対のものとして君臨する怪異、そしてそれが連続する点ばかり気を取られて、その事件は見過ごされてきました。しかしこの事件は、それが最初のものであると言う点だけで無く、次に続く他の事件と比べてある部分が決定的に違うと言う点で、実はかなり重要な意味を持った事件なのです。
 それは何か。
 サイモンさんの事件は、他の事件とは違って、唯一何も盗まれていないのです。
 成る程、調書では金庫の鍵が解らなかった、とあります。
 だから、盗まなかったのだ、と。
 しかしながら、最上位容疑者、つまり目下の所九割九分九厘犯人であるハリソン・バウチャーと逢った事のある者なら、こう言い返したくなる筈です。
 あの男が、何も盗まないでその場を後にする訳が無い、と。
 しかしながらピアース家のメイドはこうも言っています、
 曰く、『金目の物は盗まれていなかった』。
 ここにもまた一つ存在する矛盾をどう解決するか。
 選択は二つです。
 一つは、盗まれた物に価値が無かった事。腹立ち紛れに適当なものを持っていたと考えるのが妥当でしょう。しかし、第三者に解らない程に価値が無ければ、そもそも盗む意味がありません。
 もう一つは、極々一部の人間にしか価値が解らないものを盗んで行った事。それは住み込みのメイドで理解出来ない様な類の代物になるでしょう。
 そうなると、問題になるのが、サイモン・ピアースと言う人物です。親の遺産を食い散らかしている自称科学者の変人、としか知られていませんが、しかし実際の所はどうだったのでしょうか。
 それを知る為に、彼の屋敷に訪れた私は、埃に塗れた部屋の中、様々な実験器具や書類、本の類が散乱しているのを見て確信しました。
 ここは私の父の部屋と同じだ、本物の研究者の部屋に間違いない、と。
 そこで更に調べた所、色々と面白い事実が解りました。
 このサイモンさんと言う人物は、そちら方面の知人と繋がっていた様です。有名な方々だと、ノンフィクション作家として知られているジュール・ヴェルヌ氏や、期待の新人ハーバート・ジョージ・ウェルズ氏辺りです。尤も、友人と言う程親しい訳でも無かった様ですが。同好の士と言う所でしょうか。周囲の人間の認識と違いますし、どの程度のレベルであったかは知りませんが、サイモンさんは少なくとも科学の畑に種を植えていた人間ではあった様ですね。しばしばこの様な認識の相違は、周囲の無理解から来る事がありますが。
 では、彼は如何なるものを研究していたか。
 それを一言で説明するのは難しいのですが、その言動や書類を見ると、次元についてであった様です。何でも、私達がいるこの次元は縦と横、そして高さからなる三次元の世界であるそうで、そして宇宙には更にもう一つ、何かを加えた四次元なるものが存在するのだ、と。彼はそれを時と考え、そして四次元に至る事で時を自在に行き来する事が出来るのだ……そう、語っていた様です。
 それが如何なる方法によってかは、誰も知らず、また文字としても残されていませんでした。多くの学者がそうする様に、頭の中で記録していたのでしょう。誰かに成果を盗まれないように、と。苦心の末の研究を完成目前で掠め取られ、涙を飲んだ者達は多くありませんから。
 この様に、サイモさんは調べれば調べる程に、実にきな臭くなって行きます。今までそれが判明しなかったのは、彼があくまでも強盗に逢い、その結果殺されたと思われていたからです。まさか周囲は、変人がそれ以外の事で……例えば研究成果を横取りする為に……殺されたとは、考えませんから。
 ですがこうやって情報が出て来ると。
 恐ろしい程簡単に因果は繋がって行きます。
 何故この事件が最初なのか。
 何故犯人はこの事件に限り何も盗んで行かなかったのか。
 或いは盗んで行ったとして何を盗んで行ったのか。
 そして、百を数えるまでに至るドッペルゲンガー事件の怪異。
 二重幻影の正体は何なのか。
 全てが一つとなり、そして唯一絶対の解が生まれるのです。
 これを聞いた多くの人々は、何故この様な事が解らなかったのかと訝しがるでしょう。ですが、仕方が無いのです。最初の前提からそもそも間違っており、そしてそれが覆される事も無くここまで来たのですから。
 いえ、そもそも最初の段階で事件の真相が解った人間なんて、まずいないでしょう。これはそう言った事件、常識ではありえない存在が、同じくありえない存在の殻を被り、舞い踊っていた事件なのですから。
 皆がそれに踊らされ、そして多くの命が、魂が無碍に消えて行った。
 結果、僅かばかりの常識は駆逐され、非常識のみが可能性に残された。
 やがて余分なものが消え去って、今まで見えていなかったものが現れた。

 その上でアレックスが居たから、私は、この険しい詠国で、人々の魂を、心を感じる事が出来た。
 
 それは、あなたに対しても同様です。
 私は、あなたがどう思い、考え、行動したのか、感じる事が出来ました。
 以前の私ならば、それは不可能な事だったでしょう。
 ただの人形であると嘆いた私だったら……。
 でもっ、今の私は違うっ。
 アレックスがそうだと言ってくれた、この世界にたった一人の私ならばっ。
 堂々とっ、この陶器の胸を張ってっ、あなたの罪を差し示せますっ。
 
 ハリソン・バウチャー。
 唾棄すべき小悪党。
 貴方は時間旅行機(タイム・マシン)を用い。
 自分である他人(ドッペルゲンガー)を装ったのですっ。」

 →第二十五章 →表紙
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