上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
 執筆中にふと昔書いた有象無象のテキストファイルを眺めていたら、一年前年賀として友人へ描いたSSを見つけた。これがまた実に良い按配にアレ。授業中にその友人が書いた落書のキャラ主役で、というリクエストだかで書いた作品なのだけれど、今読むとこう、胃の腑にずっきずき来るな。東方×都市シリーズってどんだけだ俺。 後鰤とかちょっと封神も入ってる、か?

 でもまぁ折角なのでそれをここに上げておく。次のを書く為の時間稼ぎに。一年の間に自分ではそれなりに成長している、と思っている、寧ろ思いたいのだが、他の人の目から見るとどんな感じだろうか。

 まぁ、やっている事やりたい事が基本的に変わってない事だけは確かだ。
 人は何故感じる事が出来るだろうか。
 それは、感じる為の部位があるからである。
 眼は光を捉え、耳は音を掴み、鼻は匂いを嗅ぎ、舌は味わい、手は物を確かめる。
 所謂五感と呼ばれるそれらは、あくまで個人の主観によるものである。
 他人と共有出来るものでは無く、人はただ孤独に世界と繋がっているのだ。
 古来より俗に『クオリア』と呼ばれるそれは、しかし様々な疑問が出ている。
 例えば、ここに一厘の赤い薔薇があったとしよう。
 ある人に薔薇を見せた時、その人物は薔薇をどう捕らえるだろうか。
 彼はそれを『赤い』『花』であり、『綺麗な』香りと感じるだろう。
 花に触れば『柔らかく』茎に触れば棘が刺さって『痛い』と思うだろう。
 だが、その『感じ』とは一体何処から来るものであろうか。
 あくまで個人の主観なのだ。『赤』は『赤』では無く、『青』でもいい筈である。
 だが、その人は『赤』を『赤』と捉えた。何故『青』でも『黄』でも無いのか。
 さらにもう一つ。
 他の人にも同様に赤い薔薇を見せた時、その感じ方は概ね一緒である。
 何故、あくまで自分本位であるにも関わらず、皆が共通の感じ方をするのか。
 元々がアダムとイヴからなる人間の派生であるから、と考えれば、成る程、元は一緒なのだから、全ての人間が同じ様に感じると言うのも解らなくは無い。しかし、既にその考えは廃れて等しい上に、元々が同じであったとするには、人々は複雑に別れ過ぎていた。だと言うのに、皆の感じ方は変わらないのである。
 実は、それは個人の主観では無いのでは無いだろうか。
 『赤』は『赤』『薔薇』は『薔薇』そう決定する『何か』があるのでは無いか。
 そう考えたのが19醒紀初頭の詠吉利(イギリス)に現れた哲学者にして錬金術師。或いは科学者であり、演劇家であり、人形師であり、蒐集家であり、犯罪者。他にもあげればきりが無い程の通俗交々な肩書きを持つ彼の者を、端的にこうだと指し示す呼称があるとすればそれはただ一つ、『狂人』であろう。
 彼の名前はウィリアム。それが本名であるのかいざ知らず。また姓も不明であるのだが、その代わりにとして『師匠』を意味するマスターの名を冠し、ウィリアム・マスターとも呼ばれる男。
 産業革命真っ只中の詠国に生まれるも、速過ぎる時代の流れから生まれた貧困により直ぐに捨てられ孤児となる。当時凄まじい死亡率を誇った、劣悪な環境の工場で必死に働きながら生き延びた後、想像を絶する苦学の果てに神にも及ぶと称される知識と教養を身に着けるも、壮絶な大恋愛に敗れ果てた事で、狂気に直走った非業の男。
 彼は失恋の苦渋に身悶えする中、同時にあれ程までに愛していたさる女性への想いが全くこれっぽっちも無くなっている事実に気が付いた。
 常々感覚は何処から来るのか、と考えていた彼は、自らの瞳から毀れ、頬を伝って、地面へと『流』れ落ちる涙の中に実はその『愛情』と言う感覚の『元』になる『何か』が含まれているのでは無かろうか、と考えたのだ。
 当時であっても荒唐無稽なその考えに、誰も見向きもしなかった。
 あの大失恋のせいでとうとう頭がおかしくなったのでは無いか。そう言う者も居た。
 だが、彼だけは自らのその考えが真に正しいと信じ込んでいた。
 そして、その為に自らが培ってきたありとあらゆる人脈を用いて行った言語道断な実験…最初は街に溢れる浮浪児達を、次に裕福な家庭の子供達を次々に攫い、悪魔の如き悲痛な拷問を加えて、『涙』を蒐集した…を行った事を考えれば、『頭がおかしくなった』と言う意見は的を居たものであった。彼の行為は日増しにエスカレート…最終的に攫った子供達の数は、千人を超えると言う…して、人の噂に登る様になり、警察からも睨まれ始め、とうとう宮廷までもが動き出して、彼の所業を止めようとしたその矢先に、『それ』は見つかったのである。
 時は自らと貴族の御曹司とを天秤に取り、どちらも捨てて、年老いた金持ちの老人と結婚したあの女に似た少女の涙を蒸留している最中の出来事であった。人としての原形すら留めていない肉塊の横で、彼は揺れる炎に翳された試験管の中で涙が揮発する瞬間、一瞬だがぼぅと輝く炎を見て取ったのである。
 流素の発見であった。
 調べてゆく内に、それは涙だけでは無く、そこらにある井戸水にも含まれているある種の粒子の様なものである事が解った。驚くべき親和力を持って水と結合しているその粒子は、水が存在するありとあらゆる場所に存在し、勿論空気中にも無数に散布している事が確認された。
 その粒子は、それ単体では見る事も聞く事も、増してや触る事も出来ない。
 ただ水と結合し、さらにその水が何モノでも構わずに別の何かに触れる時。
 『意味』と言う多分に概念的な存在を司る物質として、我々の身近に生まれ出でるのである。
 ウィリアムは、それを単体の姿で発見したのである。
 その背景には、彼の類稀なる情熱があったと言われている。
 燃える様な『情熱』が存在も定かでは無い流素と触れ合う事で、『炎』となったのだとされている。
 その後当局に捕まったウィリアムは絞首刑とされたが、彼の研究は王立科学研究所によって回収され、様々な分野から研究が行われた。特に功績を挙げたのはオカルトの分野であった。つまり所謂魔法と呼ばれる現象は空気中に散布しているこの粒子を単体として一時的にでも抽出し、何らかの『意味』例えば『燃える』と言うものを手と脳を通して与える事で、一見何も無い所から『炎』を生み出せると言う様にこの粒子を用いる事で科学的に再現可能な事象となったのである。この世紀の大発見は、発見者たるウィリアムの狂的情熱によって成された功績を元に『流れ行く涙に宿った意味を伝播する元素』を意味する『流素(ティア)』と名付けられ、『19醒紀、否、人類史最大の発見』と称される事となる。
 この後、詠国では上のオカルトの方面から研究が進められ。神学や魔女学の類が飛躍的に発展して行く事になる。科学的に魔法が行使される様になり、1851年に行われた論敦万国博覧会で流素は世界に広まった。
 尚、この流素は特に土壱(ドイツ)で、詠国とは違う意味での発展を遂げた。
 土壱では流素が産業革命と共に入って来た事、17醒紀における新旧教の争いたる三十年戦争からオカルトに懐疑的(16醒紀から17醒紀に行われた凄惨な魔女裁判が、最も行われたのは土壱である)であった事から、機械的な方向での研究が行われ、優れた冶金技術と相俟って、蒸気機関を発展させた流素抽出機に義体技術の進歩と、機械技術に多大な貢献をし、今日の先進諸国社会における生活を作る事となったのである。
 日本と吾米利加はその典型で、特に土壱の首都、鐘林を模倣して作られた日本の首都である『欧風都市』東京は、古来より多量の流素が存在する土壌から、19醒紀から20醒紀にかけて、極東の島国から一気に東亜の大国にまで躍り出たのである。だが、技術の進歩は生活だけでなく、また争いも呼び、土壱統一のきっかけとなった風蘭守(フランス)と土壱の最終戦争、『風土戦争』を皮切りに、戦争に用いられる様になった流素は、第一次世界大戦、第二次世界大戦で未曾有の危機、それこそ地球の滅亡にまで至らんとした程であった。
 そこまで行かなくとも、都市、国家存亡の危機にまで至った事件は枚挙に暇が無い。
 筆者が以前記した『Gの兄弟事件 ~兄弟の愛憎と土壱崩壊~』が有名である。
 今日、車とは空を飛ぶものであり、大地は人と馬が歩く場所。
 精神的充実が物質的充実に繋がる事が常識とされている。
 しかしそれも偏に、悲劇の狂人ウィリアム在っての事である。
 彼があってこそ、流素は発見され、そして進歩を迎えた。
 だがそれには文字通り多くの涙が費やされた事を忘れてはなるまい。
 感情が直接力に結び付く世界を、幸か不幸か判断する事は、その世界に生きる我々にはどうとも決める事は出来まい。ただ、現にそう言う世界に生きている以上、我々はこの技術を、過去を、力を、感情を、そして全ての意味を考え、記憶しておく必要があるだろう。百五十年前の悲劇を、六十年前の災厄を再び繰り返さない為に。

『流素(ティア)の歴史と発展 理想文庫 ゲルトラウト・ベルンシュタイン』


 これは我々の世界とは、少々違う世界の日本の話だ。
 この世界では我々の世界には無い元素が存在している。
 それにより、世界の根底はがらりと変わってしまっている。
 陳腐な言い方だが、魔法が科学的に証明され、実行されている世界なのである。
 しかし、どの様な世界であろうと、人の営みと言うのは大差の無いものだ。
 それが、少年と少女の物語であるならば、尚更の事である。
 つまりは、恋愛とも言えぬ恋愛、友情の様で友情で無い関係に基づく物語だ。
 そしてそれは往々にして、歪んだ形で表されているのが、少年と少女の常である。
 それでは、時間と興味があるのならば、彼等の物語にしばし眼を通して頂きたい。

 新年の幕を明ける朝の光が、小高い山の上に至る石階段と石鳥居を染めて行く。
 砂利が敷かれた参道は、古めかしい石畳で作られている。何年もの間、何人もの人間に踏まれてきただろうそれは、苔生すと共に、無数に凹凸があり、歳月を感じさせる。その参道を手水舎の横を通りながら進むと、同じく相当な年月が立っている木造建築の拝殿が佇んでいた。大きさ的には然程では無いが造りはしっかりとしており、妙に真新しい文字で『納 奉』と書かれた、もの自体は古びた賽銭箱が置かれている。
 全体的に見て、小さいながらも由緒正しき神社、と言う所だろうか。
 名前は一応鳥居に刻まれているも、何と書いてあるかは解らない。だがそれは悪い要素では無く寧ろ逆で、常緑樹に囲まれた境内における静寂さと相俟って、神社と言う場における神聖さを保つ要素と相成っていた。
 無銘の神社にはしかし、誰もいない。
 この時期であれば、参拝客が居そうな者であるが、人っこ一人見当たらない。
 いや、訂正しよう。一人居た。
 それは拝殿の屋根の上。
 この場にまるでそぐわない結った金髪を靡かせ一人の巫女が腕を組んで立っていた。
 年の頃は13から15か。小柄な体躯の少女だ。
 所謂巫女服と呼ばれる紅白の装束を纏ってはいるが、その格好は相当に出鱈目だ。
 まず袴であるが、袴と呼ぶには短すぎる。精々股下位しか無い。
 後ろにはまた、大きなリボンが、機能等皆無な装飾として付けられている。
 足元を飾るのは赤下駄と足袋を思わせる白いニーソックスだ。
 上に羽織っている白装束は、肩の所で一度切れ、白く細い肌を露見している。
 およそコスプレにしか見えぬ、これが巫女かと神道に属す者と一部その手の趣向を持つ者ならば憤慨しそうな格好であるが、少女の表情は真剣そのものである。大きく見開かれた、澄み渡る空の青が宿る瞳は真っ直ぐに、鳥居の向こうを、その先に広がる朝焼けの空を、更に山の彼方に見える地平に灯った蒼い空を見据えていた。
 少女は思った。
 来る、と。違う。来ない筈は無い、と。
 毎年『奴』は来るのである。今年だけ来ないと言う事はまずあるまい。
 いや、来なければそれに来した事は無いのだが。
 ふいに吹いた強風に、木々が軋み、葉のざわめきが境内の静寂を乱した。
 少女の顔が、きっと強張る。
「……流素(ティア)が乱れている……来るわっ。」
 そう呟いたと同時に、少女は勢い良く中空へと飛び出した。
 妙に散漫な動きで落下する中、くるりと宙で一回転。
 生まれた遠心力に導かれ、袖の下から零れ落ちる様に棒状の何かが飛び出したっ。
 元の位置に戻った彼女の両手を見れば、玉串が各々一本ずつ握られていた。
 二刀流である。
 四重の紙垂を靡かせながら、少女はタンッと中空を、ある筈の無い足場を蹴った。
 ふわりと堕ちて行くだけだった彼女の体は、途端に前へと押し遣られる。
 それとほぼ同時に、彼女は玉串を顔の前で交差。
 間から、ちらり、と光る何かが地平線の彼方に垣間見えた。
 次の瞬間、青白く放電する光がくんと彼女の前に躍り出たっ。
「ぐっ!!!!」
 見えない足場で踏み締めて、彼女はぐっと両の手に力を込める。
 衝突。
 二つの玉串に断ち切られる様に、光が周囲に拡散した。
 電流の如く飛び散った光が木々に当たると、幹や葉がばちりと砕けて散った。
 交差を解きながら、トンと少女は参道の石畳に脚を付ける。
 ふぅ、と軽く息を吐いた後、きっと虚空を睨みながら叫んだ。
「今年は随分と強引な手じゃない、源内正弘っ!!!!」
 彼女以外居ない場所において、しかしその声に応える者が居た。
 鳥居の影。境内に入るか入らないかの境界線に、彼は居た。
「いやぁ今年は随分準備万端だからさ。これ位派手じゃないと入れもしない。」
 そう言って、姿を現したのは、一見する極々普通の少年である。
 年齢は少女と同程度。身長はやや高い位であろうか。
 白いラインが入った上下黒いジャージに白い紐靴は、そこらのスポーツ量販店でバーゲンの時にでも買った類のものであろう。指に嵌めている人骨をデザインした無数のリングに、両耳に付けた骸骨と十字架をあわせたピアスのごてごてしさが、安っぽい服装に程よく溶け込んでいた。
 若者らしいその格好であるが、髪は漆黒であり、瞳も漆黒である。ざっくばらんに切り揃えた短髪は、良く手入れされているのだろう、さらりと流れ、前髪の下にやや隠れた瞳は切れ長で、少女の姿を捉えて離さない。
 その少女の奇々怪々たる巫女装束姿と比べれば、全くまともな少年であろう。ただし、その頭の上乗せた黒い尖がり帽子と、肩にもたれさせる様に右手で持った、これまた黒い箒が無ければ、の話である。
 黒尽くめの、源内正弘と呼ばれた、少年はその帽子を弄りながら楽しそうに続けた。
「で、今年もやっぱり駄目なんだね?平賀クレア。」
「当ったり前じゃないっこの馬鹿っ!!!!」
 結った金髪を激しく揺らして、平賀クレアと呼ばれた少女が叫んだ。
「うちがどんだけ閑散としてるか、見りゃ解るでしょ。
 元旦だって言うのに、参拝客なんて一人も居ない。
 去年一年に詣でた人なんて、百人満たないんだからっ。
 そんな神社の賽銭盗もうと企むなんて、あんた一体どんな神経してるのよっ。」
 獅子の如き咆哮で捲くし立てた彼女に、正弘はけろりとした調子で返した。
「少なくとも、君程ヒステリックのつもりは無いんだがなぁ、僕ぁ。」
「何ですってぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええええええええええ!!!!」
 正に怒り心頭である。
 木々のざわめきは益々増し、掠れる木の葉が喧騒を産む。
 無数の小石は小波を立てて揺れ動き、その情景は波間のそれだ。
 図らずも、クレアの発する怒気が、周囲の流素を大いに乱しているのである。
 流素とは水と強い親和力を持ち、万物に存在する『意味を伝播する元素』である。
 砕けて言えば、魔法の元、と言う所であろうか。白いキャンパスと言ってもいい。
 人の意思に反応し、自在に形を変え、様々な現象を引き起こす。
 それを行える存在を、人は例えば『巫女』と呼び、例えば『魔法使い』と読んだ。
 機械と技術の進歩で、自力で行える人間は少数だが、しかし確かに存在する彼等。
 現在では彼等は総じて、『流素使い(ティアラー)』と呼ばれている。
 そして、境内の木々、建築物に宿る流素には全て『平賀の姓』と言う意味づけが成されていた。
 つまり、この神社に存在する流素は全てクレアの支配下にあると言っても過言では無い。
 汚らしい言い方をすれば先にツバ付けられているのである。
 にも関わらず、正弘はにこやかに笑った。
「そうやって怒るとどんどん小皺が増えてゆくのさ。」
「うっさいわね……で、あんた入ってこない訳?」
 むっとして返したクレアの口持ちに、意地の悪い笑みが浮かぶ。
 そう、先程から正弘は境内に一歩たりとも踏み込んではいない。
 入った瞬間にどうなるか、彼には良く解っているからだ。
 無論、彼女も、である。
「そうだねぇ。殺気剥き出しの流素を解いてくれると嬉しいんだが。」
「お生憎様。あんたがそこにいる限り、ここはずっとこのままよ。」
「うん、そう言うと思ったんだ。」
 と、言うと、彼は腰のポケットから、黒い携帯電話を取り出した。
 別にメールを打つ訳でも無いし、電話を掛ける訳でも無い。
 ただ、モニタの上部に表示された時計を見たのである。
 そろそろか、と一人ごちに呟くと彼はクレアの方を見た。
「だから、ね。」
「……何よ……ってっ。」
 くすっと微笑む正弘を訝しがるクレアは、その背後に移るものに正しく仰天した。
 それは、朝日の中で輝く無数の星々であった。全てが全て、青白い光を放っている。
 『突き進む』『破壊する』
 単純な意味付けだからこそ純粋に流素の量で威力が決まる。
 それは、正弘が最も得意とする攻撃魔法。
「事前に準備させて貰ったよ、僕の方でもね。」
 彼は鳥居の前に立つと、指揮者が演奏を開始する様な仕草で両の手を振り上げた。
 一気に振り下ろすと共に、光の雨が神社目掛けて降り注がれた。
 範囲は広大で、回りの森までカバーしている。
 威力は甚大で、一発止めるだけでも一苦労である。
 それが雨霰の如く、無差別に降り注ぐのだ。たまったものでは無い。
「こぉぉぉんの馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁああ!!!!」
 クレアは叫んだ。
 叫びに流素が呼応し、ふわりと風が螺旋を描きながら吹き荒んだ。
 小さな駒の様に回っていた風はやがてそれぞれが一つにまとまり、最終的には神社を包み込む程になる。
 大気の壁である。
「静っ!!!!」
 金髪を横薙に流しながら、ぶおんと彼女は両手の玉串を外に向かって払った。
 吹き荒れていた大気の壁は一瞬で外へ。
 降り注ぐ光の雨と激突すると相殺。
 後には、電流がパラパラと辺りに弾けて行く。
 眼には眼を、歯には歯を。
 自らが扱える流素をフル活用した、力任せの防御魔法であった。
 でも、と彼女は思う。
 今のは隙が大き過ぎた。止めるにしても、もっと方法があったのでは無いか。
 あいつならばこの隙に、
「入らして貰ったよクレア。」
「!!!!」
 横合いから声を掛けられ、思わず彼女は振り向いた。
 黒い尖がり帽子を弄ぶ、正弘の姿が直ぐ真横に居た。
「あれは囮って訳ね。」
「まぁね。全部打ち消してくれる辺りが、クレアらしくて可愛いな。」
「誰が可愛いですってっ。」
 思わず振り払われた右手の玉串を、ガキリと黒箒が受け止めた。
「すぐムキになる所とかね。でもこの距離であんなのはお互い使えないよ。」
「えぇ、そう、ね。」
 ギリギリと抑えあいながら、正弘の言葉にクレアは頷く。
 殆ど密接状態にあるこの様な近接距離で撃ち合えば、自分もただではすまない。
 だが白兵戦闘が出来なくて何の流素使いであろうか。
「だからどうしたってのよっ!!!!」
 ブォン。
 抑えられた右手では無く、左の玉串をクレアは振り払った。
「おっとっ、危ないなぁ。」
 正弘はバックに飛ぶ。
 黒箒を両の手に握って、筆状の方を槍の如く向けて構える。
 クルリクルリと回しながら、その矛先をクレアの鳩尾へ。
 すぅ、と息を吐いて呼吸を止める。そして、
「それじゃ今度は僕の番、だっ。」
 だっと踏み込みながら、箒の先を勢い良く突き込んだ。
 風を切り裂いて、突き進む穂先は、クレアから見ればただの点にしか見えない。
「ちっ!!!!」
 がっ。
 と、玉串を交差したクレア。
 その接点で、穂先を受け止める。
 それでも尚体を突き抜ける衝撃。
 『攻める』その一点のみで培われた流素の突撃。
 自らもまた流素において『護って』はいるものの、受け止め切れない。
 無理に絶えず、彼女は後ろに飛んだ。
 衝撃のままに下がった距離は、裕に10mを超えている。
「んー、やるね。」
 正弘はひゅんと黒箒を足元に下ろした。
 穏やかな笑みを浮かべた後、彼はすぅぅと口と鼻から、空気を吸う。今の攻防で乱れ、『平賀の姓』では無くなり、空気中に拡散している『無意』なる流素を取り込んでいるのである。
 クレアの額から一筋の汗が流れた。
 彼女が持つ地の利は、徐々にだが確実に削ぎ落とされているのである。
「……長期戦は駄目ね。」
「ん、何をするつもり?」
 一人ごちに呟いたクレアは、袖の下から何かを取り出した。
 それは、紐で束ねられた数百にも及ぶだろう、呪符であった。
「この場で大技は使えないって言ったわねっ。」
 彼女は叫びながら、その呪符の束を空中に投げた。
 束は空高く舞い上がり、重力に縛られて、落下して行こうとする。
 その瞬間を狙い、彼女は玉串を振るった。
 一陣の刃風が束を掠め、紐がはらりと切れ飛んだ。
 束縛を失った呪札は、ぶわっとばらけて、堕ちて行く。
 正弘の真上、その周囲へとはらりはらりと。
「ぁ、やばっ。」
 彼の顔に初めて焦りが浮かんだ。
 苦々しげな笑みを浮かべながら、彼は黒箒を水平に。
 そして、勢い良く走りながら黒箒の上に飛び乗った。
 『浮かぶ』『飛ぶ』『進む』の流素を纏った黒箒は、クレア目掛けて迫り行く。
「だったら、『離し』ちゃえばいいのよっ。」
 だが遅い。
 ひゅんと、彼女は玉串を振るった。
 刹那、ただ揺れているだけだった呪符が、ぴんと一枚ずつ立ち並ぶ。
 一見すると意味の無い、しかし良く見るとそれは菱形の幾何学模様。
「間に合えっ!!!!」
 そう叫んで進む正弘の目の前で、空間が歪んだ。
 クレアの目の前、呪符の間を通り抜けようとした時、黒箒はびしっと静止した。
「あらら……。」
 とん、と黒箒から降りて、正弘は目の前の空間を叩いた。
 感触は無い。叩いても音はしないし、眼に見える変化も無い。
 だがしかし、呪符の間を通ってその先の空間へは決して触れる事は出来ない。
 触れざる硝子の壁に囲まれているかの様な中、正弘は苦笑いを浮かべた。
 その様子を、さも楽しそうにクレアは眺めている。
「『こっち』と『そっち』は完全に別。どう足掻いても無駄よ。」
 『停止』と言う結界。神…それは今では大いなる『信仰』の流素に基づく存在だと証明されている…と人との橋渡しである巫女にとって、結界・境界を引く類の事はまさに十八番であった。
 だが、
「うーん。まぁ、そうだね。」
 正弘は、平然とした様子でポケットを漁った。
 取り出したのは、先程時刻を見るのに使った黒い携帯電話。
 それを見ながら、うん、と彼は頷いた。
「な、何よあんた……。」
 眉を潜めるクレアに、正弘はにこやかに笑い掛けて、
「言ったでしょ?『事前に準備してある』ってさ。」
 つぅ、と人差し指を天に向けた。
「まさかっ!!??」
 クレアは見上げた。
 太陽の中において尚判別出来る程の輝きを持つ、青白い星の姿がそこにあった。
 先程のが雨であれば、あれは雹であろうか。
 塊と言う意味では、先程の比では無い。
 しかも、気付くのが遅過ぎた。
「くっ!!!!」
 神社内にある、自らが支配する流素を動かす。
 『護』りたい、しかしあれは無理だ。
 ならばやる事は一つっ。
「てぇぁあああああああああああああぁぁっ!!!!」
 彼女は叫んだ。同時に交差させた玉串を、一気に振り払う。
 文字通り大気に流れていた流素が一気に揺れ動き、神社を包み込んで行く。
 先程呪符で見せた『停止』による結界を、大規模にしたものだ。
 音も無く巨大な点が降り注ぐ中、結界が築かれて行く。
 しかし、その大きさが故、完成させるには時間が掛かる。
 結界とは、境界線によって作られた、閉じた世界である。
 境界線が不完全で円環を成さなければ、それは意味を成さない。
「間に合えっ!!!!」
 目には見えず、音も聞こえず、しかし確かに線は引かれ、結界は作られて行く。
 光は最早目の前だ。
 時間にして一秒にも満たない。
 その極小の時間の中で、対に結界は張られた。
 今にも神社全体に落ちようとする光は、結界に触れてぴたりと停止した。
「ふぅ……っ。」
 クレアは思わず息を吐いた。
 額に浮かんだ玉の様な汗を拭い去る。
 そのまま一気に振り上げれば、光は『無意』なるものへと消えて行く。
「……これでどうっ。あんたの準備はもう尽きた筈よ。」
「いやぁ、凄いな。アレ作るのに一週間掛けたんだよ。
 軌道と時差を計算して、成層圏に溢れる光の流素と大気の流素を兼ね合わせて練り上げたって言うのに。」
 びしっと玉串で指差したクレアに、正弘は拍手で応える。
「む、何か余裕ね。」
 クレアはぶすっと顔を顰めて、正弘の顔を見た。
「ま、ね。何だっけ、『こっち』と『そっち』は別物なんだっけ?」
 そこに浮かんでいるのは、爽やかな微笑み。
 すっと、彼は黒箒を肩に担いだ。
 柄によって、一瞬隠れる表情。
 次に現れた時、口元は確かに笑っているが、眼は全く笑っていなかった。
 その瞳の中に、嘲笑とも取れる光を宿して、彼は言った。
「なら、『こっち』側の流素は僕のものだよ。」
「ぁっ。」
 失念。
 確かに、境内と言う己が世界の中に築かれた『他界』である結界の中は、彼女の管轄外だ。
 そして盛大に流素を使って攻撃を防いだ後で『平賀の姓』を持つ流素は乱れている。
 結界内に溢れる流素はどれ程かは解らないが、範囲からすれば結構ある。
 いや、今は少なくてもいい。
 『破壊』に特化した魔法使いである正弘の攻撃を受けると言う事自体が、即ちっ。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああっ。」
 ここに来て初めて放たれた、正弘の腹の底からの咆哮。
 それと共に大振りに払われた黒箒は、見えない壁に向かって風を切って突き進む。
 快音。
 一点を損なえば全てが崩れ去る。
 硝子が割れる様な音と共に、内から外へと突風が吹き荒んだ。
 その突風が、クレアに襲い掛かる。
 既に疲労はピークだ、耐え切れるものでは無い。
「きゃぁぁぁぁっ!!??」
 彼女の華奢な体は、流れ行く呪符と共に宙へと舞い上がる。
 ぼてん。
 半ば間の抜けた音を立てながら、彼女は砂利の上に落ちた。
 はらはらと堕ちて来る呪符を見ながら、彼女は小さく呟いた。
「……手、添えたわねあんた。」
「うん、女の子を傷物にする趣味は無いんでね、僕。」
 すっと青い瞳の中に移るのは正弘の顔。
 覗き込む様にしてクレアを見る彼の顔は、優しく微笑んでいた。
「さってー、と。それじゃ今年は僕の勝利だ。ありがたく貰ってゆくよ。」
 そう言うと正弘は彼女を無視して、参道を歩いて行く。
 それ程大きく無いのであるからして、彼は直ぐに拝殿に辿り着いた。
「それじゃ、こいつは頂いて行くね?何、お年玉代わりと思えばいいさ。」
 振り向かずに、賽銭箱に手を伸ばしながら、彼は彼女に向かって言った。
 その背中に向けて、乱れる息を整えながら、クレアが応える。
「あー、それは無理よ。だって、」
「ん?」
 正弘の手が、今にも賽銭箱に触れようとした時。
「だから言ったじゃない、『事前に準備してある』って。」
 『納 奉』と書かれた部分が、はらりと剥がれ落ちた。
 糊付けされた紙の裏には、葉団扇の紋章が刻まれている。
 空気に触れたそれは、呼応する様に青白い線を浮かべ、
「うわー最後の最後でこr、」
 水平に廻り行く荒々しい竜巻が、境内から鳥居へと向けて吹き荒んだ。

 今見ている太陽は、その角度からして8時、いや9時位であろうか。
「うーん、もうちょっとだったのになぁ。」
 石鳥居の影に持たれながら、正弘は残念そうに呻いた。
「そう易々と取らせてたら、たまったもんじゃないわ。」
 反対側に持たれながら、クレアがそう毒づく。
「まーね。他愛無くちゃつまらない、っと。これで通産何回目?」
 正弘は彼方此方ささくれだってしまった黒箒を杖代わりに立ち上がった。
 んー、と背筋を伸ばせば、ぼきぼきと心地良くも健康に良くない音が響く。
「二勝二敗。今年の分は一引きって所ね。」
「勝負に勝って、試合に負けたからな。うん、それでいいよ。続きはまた今度だ。」
「……あんた、まだやる気?」
 ぐっと背中を反らしながら、呆れ顔でクレアは正弘を見た。
 彼は、にっこりと笑みを浮かべながら、臆面も無く言った。
「そりゃ当然だよ。毎年の恒例行事じゃないか、僕達の。」
「あんただけよあんただけ。私ゃコリゴリだっての。」
 むっとして体を戻すクレアの声は、しかしそう満更でも無さそうだ。
「ははは……あぁ、それじゃ僕はそろそろ行くよ。帰って即効お風呂に入りたいや。」
「そう。またね、とは言わないわ。もう来なくていいから。」
「ん……あー、と、そうそう、忘れてた。」
 黒箒を肩に背負い、帰ろうとする歩みを止めて、正弘は振り向いた。
「……何よ。」
 疲れて睨むに睨めない瞳で、クレアは彼を見た。
「いや何言い忘れたな、って。」
 それを受け止めて、すぅと息を、流素を吸いながら、彼は言った。
「『あけましておめでとう』今年もどうぞ宜しく。」
 吐き出された言葉には、そのままの意味の流素が込められていた。
 その素直さにうっ、と頬を染めながら、
「あ、『あけましておめでとう』……こちらこそ宜しく。」
 同じ様にそう返した。
「うん、宜しく。それじゃ、今度は学校で、ね。」
「……ん。」
 くすりと笑って、向きを変えた正弘は、とんと階段を飛び降りた。
 特徴的な黒い尖がり帽子が見えなくなると同時に、その姿も消えていた。
 後には、日の光に熱せられた、何処か心地良い冬の風のみが残されていた。
「……やれやれ……さって、と。」
 風が何処かへと去り行くのを見守ると、クレアは境内に向き直った。
 かなり流素が乱れている。
 場所柄、放っておけば直ぐ治るだろうが、我ながら派手にやったと思う。
「……来年はもっと効率良いのを考えないと。」
 ふっと毀れ来る笑みをそのままに彼女は独りごちに呟くと、家路へと向かった。
スポンサーサイト
Secret

TrackBackURL
→http://tasogaremignon.blog79.fc2.com/tb.php/596-6226df8f
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。