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 理一押しの愛すべきボンクラ作家、ジャック・ヨーヴィルことキム・ニューマン師匠のウォーハンマーノベル第四弾にして完結編(らしい。実に残念な事であるが)『シルバーネイル』を先程読了したのでその感想をば。
 今作は五つの話による短編集なので、一話ずつ挙げて行って見よう。

第一話『赤い渇き』
 あらゆる快楽を禁ずる道徳向上十字軍に捕らえられた僕等の永遠のヒロイン(と、言われるのは多分本人不快に思うだろうけれど)ジュヌヴィエーヴ・サンドリン・デュ・ポワント・デュ・ラク・デュドネことジュネと、傭兵ヴコティッヒの逃亡劇と、それに纏わる暗殺計画阻止の物語。時代背景としては、『ドラッケンフェルズ』討伐の後、ジュネが隠遁院に入る間に当たる。

 山林の中を一本の鎖で繋がった状態で逃げて行くシーンはなかなか迫力的で、吸血鬼と人間との奇妙に湿ったロマンスも素敵。ジュネの方は吸血鬼であるが故に余り込み入った感情を持っておらず、ヴコティッヒの方は宗教的理性的な理由で表面上毛嫌いしている構図で進んでゆくのが面白い。在りし日のデトレフや、エフィモヴィッチというキャラをさり気なく絡ませるのも流石である。

 中でも遺憾無くその存在感と魅力を発揮していたのが、実質的もう一人の、いや裏の主人公と言っても過言ではない、キャセイ(中国)人の密偵、チン・ディエンだ。出版物としては先になる『ベルベットビースト』での暗躍も大変素晴らしかったが、今回も変わらぬ胡散臭さでジュネとヴコティッヒに立ちはだかるナイス悪役である。今作ではクンフー使いとしては勿論、前作で見られなかった呪術師としての側面を垣間見る事が出来、その魅力に拍車が掛かっている。霊龍を身に纏いてのラストバトルは必見である。次があれば、またまた活躍して貰いたい所だ。

 後本筋とは関係無いのだが、どうやらゴジラは邪神だった様である。

 何というか、あれだ、うん、師匠はやっぱ凄ぇ馬鹿だよね(褒め言葉)。

第二話『灰色山脈にもう金はない』
 二話目は、ジュネの祖母(或いは叔母)として、幾度も名前が出ていた外見年齢十二歳、病んでいるのは日本でも英国でも変わらない、もとい、やっぱり師匠日本人だろっと思わせてくるロリペド吸血鬼、レディ・メリッサ・ダクーと愉快な餌食盗賊達の物語。

 流れとしてはよくあるものだが、お得意の群像劇による盗賊達、そしてメリッサの描写が面白い。殊メリッサは、流石ジュネの祖母だと思わせてくる、”老いた少女”としての奔放でありながら理知的な魅力が出ていて良かったな。

 しかしメリッサは、ドラッケンフェルズ城下まで何しに行っていたのか。本当に唯の通りがかり?読み飛ばしてしまったかもしれないが、特に理由は書かれていなかった。今手元に他巻が無いのも痛い所である。

第三話『もの知らぬ軍勢』
 三話目は、『ドラッケンフェルズ』や『ベルベットビースト』で登場したヨハン・フォン・メクレンベルクの過去、混沌(ケイオス)の将軍によって浚われた弟ウルフを取り戻す旅の顛末を描いた物語。第一話に登場した傭兵ヴコティッヒも従者として現れる。確か、『ベルベットビースト』でもあらすじは書かれていた筈で、思い出せばヴコティッヒという名も出ていた気がするが、どうにも忘れてしまっていた。これはもう一度読んでおくべきだな。

 さて、この話。時間としては実に短い期間のものなのだが、凄惨という意味では今巻の中でも一番凄惨だろう。十年に及ぶ、弟を追い駆ける兄の何時果てるとも知らぬ長い旅路の果てに辿り付いたのは、混沌の者どもがただただ毎夜争い合う戦場とその残骸を糧に生きる者達の村、そして目を覆いたくなる様な事実。

 泥臭い戦闘シーンは読み応えあり(あの武器調達法もいいな)その結末もいいな。延々と続く様に思われた惨めな争いを止めたのは、そうするべきと宿命付けられた男の自己犠牲のよる穢れ無き血だった。恐らくそこには、彼女の影響もあったのではと思われるが、なかなか綺麗な終わり方だ。

第四話『ウォーホーク』
 『吸血鬼ジュヌヴィエーヴ』収録『流血劇』等で触れられていた、戦鷹を利用した連続殺人鬼ウォーホークを追う、マグニン投げナイフの使い手、”ダーティ・ハラルド”ハラルド・クラインダインストと、赤毛の心霊鑑定者ロザンナ・オフュールスの物語。ジュネと組んで、という噂を聞いていたのだが、ロザンナの方だった様だな。

 さて何度も名前が挙がっていた為、その内容が気になっていたこの事件だが、蓋を開けるとかなり微妙だった。

 まず序盤、犯人であるウォーホークの殺人法則が物語の謎として主立って書かれていた筈なのだが、結局それは事件解決に殆ど役立たず。また、ラストのオチも実に呆気無さ過ぎである。もう少し後日談的なものがあっても良かったろうに。師匠の作品は、割合オチがあっさりしているけれど、それにしてもあっさりし過ぎである。

 ハラルドが百件酒場通りを練り歩くシーンなんかはなかなか面白かっただけに、ちょっと残念だったな。

第五話『吸血鬼戦争ふたたび』
 時は『吸血鬼ジュヌヴィエーヴ』収録『流血劇』より十年後(というと、同収録『ユニコーンの角』よりも後の話になるか)、再び帝都アレトドルフにやって来たジュネ。吸血鬼排斥運動が繰り広げられる中、デトレフと、そしてメリッサと共に、彼女は人と吸血鬼の一大決戦『吸血鬼戦争』を止める為、敵対勢力の長暗殺計画を阻止せんと動き出す。

 御得意の倫敦を思わせる霧の都を舞台とする話なだけあって雰囲気はたっぷり。また愚民達から逃げる為に英雄シグマー像の二つの”ハンマー”(何かは想像にお任せする)を掴んで逃げたり、キャセイ時代の師匠、ポー老子直伝の蟷螂拳(他の話でもそうだが、蟷螂拳を使う吸血鬼なんて初めて見たぞ)を駆使してばりばり戦ったり、シスターの格好で潜入をこなすジュネが素晴らしい。

 またデトレフと共に行動するメリッサも、先の第二話に続いての活躍っぷりが良い。招待を隠して接近したと思えば、彼の姪然として事件捜査に挑む等、なかなかのお茶目っぷりを披露してくれる。ある所では完全にジュネを喰う存在感を出している。

 ともあれこの二人の人外ヒロインの存在は、ミステリーの希薄さ……尺の短さもあるが、もう少し黒幕についての描写を描いて欲しかった所だな……引いては物語の希薄さを補うに余りある存在であり素敵と言うより他無い。リナスティック、三人の小ばか等も面白いキャラではあるが、如何せん力不足は否めない。

 それからあとがきにも触れられていたが、メリッサの台詞「語りの芸術というものはね、少なくとも一箇所、質のよい笑いを含んでいなければ、ほんとうの意味で偉大な作品とは言えませんよ」というのは実に納得。やっぱ笑いは必要ですよゴジラとかゴジラとかゴジラとか

 尚余談だが、笠井潔は関係無いと思う。多分。読んでないから解らないけど。

 という訳で、上の全五話を読み終えたのだが、それぞれなかなかに面白かった。ただ、全部総合すると、少し物足りなさや納得の行かなさが残るかな。多分にこれは短編だからという形態が故であり、個人的に師匠は長編の方が向いていると思う。あの虚実綯い交ぜの世界観、いやここまで来ると最早作風を遺憾なく発揮する為の土台として、短編中篇では足りないかと。ともあれ、悪くは無いので、一読をお勧めする所である。
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