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 今日は日曜洋画劇場にてリーグ・オブ・レジェンドをやっていた。DVDを持っているが、しっかり拝観。ジブリみたいなものだ。まぁしかし、難癖言われているけれど、やっぱり好きだぞこの作品、浪漫があって良い。確かに受け入れ難いネタではあろうけどね、続編を見たい所である。

 それはさておき今回は、ちょっと某所にて書いた三題話をば。三十分だけの即興で書いた作品なだけに、荒が目立ち過ぎる訳だが、まぁこれも一つの習作として書いていてなかなか面白かった為、折角だからと上げて置く。尚、二つあるが、最初のは『魚』『バット』『変な子』次のは『脳みそ』『信頼』『跳梁跋扈』が題目である。
・ある日の午後に

 僕がその少女を見たのは、学校から帰る時に通り掛る、寂れた公園でだった。
 その公園は、建築されて間も無いアパートメントの近くに立てられているというのに昼間であっても誰も居ない場所で、クラスのとある友人が語るに曰く、何年か前に陰惨な事件が起きただとかで人が寄り付かなくなっているらしい。その所為か、遊具類の管理もずぼらで、ジャングルジムは半ば錆で覆われており、ブランクの鎖も引き千切れそうになっている。
 少女はそんな公園の中央に佇んでいた。何をするでも無く、ただじっとしたままに。
 ランドセルは背負っていないが、その背丈や服装から考えるに、小学生低学年から中学年という所だろう。黒々とした髪の毛を所謂おかっぱにしている辺り、何処と無く古風な印象を与える。野暮ったい、と言ってもいい。
 よく見ると彼女は、何かを手に持っている。僕に対して背を向けており、且つ多少遠目なのではっきりとは言えないが、どうもバットであるらしい。色は黄色で、長さは少女の体躯に見合った短めのものだ。発せられる光沢は、それが安物のプラスチックで出来ている事を示す。彼女はそれを、大地に突き立てる様にし、柄の先へ乗せた手で体を支えていた。
 傾き出した午後の太陽に照らされ、若干の影を地面に差すその姿を、僕は訝しそうに見た。
 あの少女は、一体あんな所で何をやっているのだろう。
 そう考えていると、彼女は徐に、スカートのポケットから何かを取り出した。
 小さな手から抜け出そうと飛び跳ね、辺り構わず汁気を発しているそれは、どう見ても生きた魚だった。
 種類についてはあえて言う必要も無いだろう。たった一人、昼日中の公園で、突然ポケットから魚を取り出す少女という奇妙な構図の前にそんなものは瑣末だ。
 正にぎょっとして、僕は彼女が一体何をするつもりなのかを凝視する。
 と、少女は、ぼとりとその魚を放り捨てる様に砂地へ落とすと、バットを両手で握り締めた。
 そして行き成りそれを頭上へ振り被ると、彼女は一気に振り下ろしたのである。
 少女の前で、今だ脈動している魚目掛けて。
 だんと鈍い音が、人気の無い地に響く。
 魚はその一撃によって動きを緩めると、小刻みに震えるのみとなった。
 だがそれでも飽き足りないのか、彼女は更に振り被り、再び振り下ろす。
 僕が見ている事にも気付かず、少女はその行為を繰り返し始めた。何度も、何度も、だ。
 余りの異常さに、僕は思わず彼女へ向けて走り出していた。幾ら何でもこれは尋常で無い。
「おい君、一体何をやっているんだっ。」
 そう言って僕は少女の肩を掴むと、今だ繰り返される腕の上下運動を無視して、ぐいとこちらに向かせた。
 猫だった。
 毛を生やし、髭を立て、細長い虹彩を輝かせる猫眼の少女がそこに居た。
 ひっ、と思わず後ずさり、もつれて腰を抜かした僕は、ふと友人が言っていたあの事件について思い出した。
 何年か前、変質者が猫を殺すという事件があったらしい。何匹もの猫が、野良かどうかに関わらずに撲殺され、この公園の、そうだ、丁度この場所に死体となって放置されていたという。真夏の出来事で、それは酷い悪臭を伴ったそうで、犯人は結局捕まったけれど、今だその事を記憶にしている周囲の者達は気味悪がって近付かないのだ、と確か友人は言っていた。
 その話を脳裏に浮かべ、震えながら状況を整理しようとしている僕を、猫の顔をした少女はぷいっと無視した。
 そっぽを向き、まるで平然と、何事も無かったかの様に先程の行為を再開する。
 周囲に四散する生臭さに僕が口に手を当てる中、彼女は何時までもバットを振り続けていた。

・この世で最も美味なるソテー

 強い少女、というのが、彼女に対する私の印象だった。
 年端も行かないのに、年の差もかなりあるのに、私は何時もその従妹たる少女に翻弄されていたものだ。
 だから、そんな彼女が病に倒れ、しかも治る見込みも無く、更には余命幾許も無いと少女の両親から聞かされた時、私は非常な驚きを持ってそれを受け止めた。まるで小さな姉の様に、私の手を強引に引っ張って彼方此方連れ回した彼女が、まさか私よりも早くに死ぬ事となるだなんて、とてもでは無いが想像出来なかったのだ。

 その思いは、入院している少女に逢ってからも変わらなかった。
「何よ、その顔。私の前で、そんな辛気臭い風漂わせないでくれる?」
 どう言えば良いのか解らず、俯いたままの私をそう言って笑う彼女は、普段とまるで同じであり、やはり不治の病に掛かっているとはとても思えなかった。少し頬をこけさせ、入院衣に身を覆い、点滴を打たれながらベッドに寝ている姿で無ければ、私は、彼女が病人である等たちの悪い、そう、それこそ何時も私をからかう彼女の嘘だと言って憚らなかっただろう。

 だが、月日は残酷というものだ。
 少女が入院してから一週間、一ヶ月と経つ内に、彼女は眼に見えて痩せ衰え、唇からも力が消えていった。
 私は、そんな少女を見るのが辛く、正直見舞いになど行きたくなかったのだが、しかしその両親曰く、どうしても私に来て貰いたいそうだ、という事で、致し方無く毎日彼女の元を訪れては、弱々しくなった叱責を受けて心で涙するのだった。

 そんなある日の夜、少女は唐突に、私に言った。
「…ねぇ●●、頼みがあるんだけれど。」
 蟲の様にか細い声に心臓を捕まれる様な苦痛を受けながらも、私はどうにか、何かな?と、そう聞き返した。
 それに対して帰って来た答えは、病人が抱く妄想めいた、恐るべきものであった。
「…私の、頭…食べてくれない?」
 私は、当然の事だが驚愕し、何故そんな馬鹿な事を言うのか、と尋ねた。
 その言葉に、彼女はふふっと、私を困惑させて仕方が無いあの笑みを浮かべて、
「本で、読んだわ…人の肉を食べるって事は、その人の力を受け継ぐのだ、って…それから、こうも、ね…悪い所の部位を食べる事で、それが治るんだ、とも…貴方は、怯え過ぎるから、ね…脳がいいと、思うの…。」
 一体この少女にそんな本を読ませたのは誰かと心の内で怒りつつも私はそれを拒めなかった。
 彼女の虚ろな瞳が、鏡の如くに震える私を映し出し、その奥に覆せない命令を見て取ったからだ。
 嗚呼……叶わない。
 私は、暫くの間黙っていたけれど、ついにぐっと頷いてしまった。
 愛しいこの少女そのものを己の内に受け入れるのだというある種の性欲の昂りと、彼女が自身を食べさせる相手に私を選んでくれたのだという信頼の喜びと、そして全て彼女の言うがままに動かされているのだという被虐的趣を抱きながら。

 それから更に一ヵ月後、少女は死んだ。彼女の頭部の内部には、何も収まっていなかったけれど、腕の良い闇医者の縫合によって誰にも知られる事は無く、彼女は真夏の夕暮れの中で、荼毘に帰した。

 少女が天へと召されてから、私と逢った者は、口々に私が変わったと、妙に力強くなったと言った。
 その都度私は、何時も私の側に居るある少女が私を変えてくれたのだよ、と笑いながら応えたものである。 
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