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 淫乱魔(サキュバス)
 銀座ネオン回廊の無計画な散策の果てに味気無い朝日が差し、結局何する事無く帰ろうとしていた私の裾を、ちょんちょこと引っ張る者が居た。
 振り向けば、少女が一人立っている。肌の張りや指の皺を見るに実際はもう成人年齢を超えているのだろうけれど、小柄な体と可愛らしい顔の作りを見る限りは少女と言って問題無さそうな者だ。尤も、薄い青玉色のショートヘアをした中身空っぽそうな頭より生える一対の山羊角、臍出しノースリーブのピンクシャツが背から生えた意味も無さそうな皮膜状の翼、デニムマイクロミニスカートに開いた穴から伸びる三角先鋭の尻尾を持つそいつを、常人の様に少女と言って良いならばの話である。
 嗚呼またかと思ったが、折角なので何様か尋ねると、紅玉色の猫眼はそのままに白桃の唇を吊り上げて淫乱魔はこうのたまった。お豆腐一丁くださいな、と同じ様な実に軽快な口調で、「貴方のミルクくださいなん」と。
 勿論即座に踵を返す。普段だったならばそんなもの好きなだけくれてやっても良かったが、徹夜明けの体は怠惰な眠りを欲しているのだ。
 が、思いの他強い力に引っ張られ、あえなくその試みは失敗した。やれやれと再び振り向き、灰色のスーツの裾を掴む手をやんわり離させる。その後で、どうせ無駄だと思いつつも、今自分はそんな気分じゃない何処か他の奴を当たってくれ、と告げた。
 彼女は予想通りに嫌々と首を横に振ってから、かの者達特有の扇情的な笑顔で言った。
「そんないけずな事言わず魔王様のをご馳走してくださいましぃ。」
 そこで私は溜息を付いた。我が種族の特性を恨んだり、悔いたりした事は一度足りとて無いが、望んでいないにも関わらず惹き寄せてしまうのも考え物である。昔ならば兎も角、今ならば他の連中の様に薬を使うという手も無くは無い。が、それでは折角の体質が無意味になってしまうし、そんな事の為に決して安くない金を払う気になど到底なれない。人外の存在たる保因者の公的登録をしていない以上、闇医者に掛かるしか無ければ、尚更だ。
 とか何とか頭の内で語っている前に、どうしようも無い現実が居る。かの淫乱魔は私が内心に浸っている事を脈在りと判断したのだろう、さっきからずっと片手を振り振り「かるきーざーめんくりのはなー」と連呼していた。それも徐々に声音を上げながら、さも愉快そうにだ。幾らここが歓楽街とは言え、迷惑な話である。世の人達は御就寝の最中であるというのに。
 気乗りはしないが仕方もあるまい。私は喧しい野良猫を黙らせるべく、ベルトを掴んで、淫乱魔を持ち上げた。へみゃという気の抜けた声を上げた彼女は、しかし直ぐに期待の眼差しでこちらを見つめ、悪魔の尻尾をぶんぶんと振った後、逃げさせない為か、ぐるぐるとそれを私の腕に巻き付けた。全くご苦労な事である。一度行おうと動けば、それを覆す事はまず無いのに。仮令頭は乗り気で無くも、体は関係無く情欲に身を負かす事が出来るものだ。持った拍子に覗けるスカートの中身、黒のサイハイソックスと皮革のブーツを除けば前張りだけで残りは全て露出した下半身でも見ればより一層に。
 こうして私は路地裏の影、数十年前から変わらぬままのコンクリート製ビルと、それと同様のビルの間に淫乱魔を連れて来ると、彼女を薄汚れた塵だらけの隙間に放った。みぎゃっと強かに打った腰を摩りながら、抗議の声を上げようとする淫乱魔の眼前にそそり立った一物を突き付けてやれば、罵詈は直ぐに甲高く、黄色い声色になった。
 見た目通りの単純さに感謝し、許可の念を込めてその頭を一、二回叩いてやれば、後はこちらがやる事は何も無い。食欲と性欲の飢えを満たすべく、大口を開けて私の息子を咥える彼女の好きに任せるだけだ。
 だが、淫乱魔がさも旨そうに根元まで頬張るのを視覚と聴覚、視覚で感じていると、自分も何か咥えたくなるから困る。私は背広の懐を漁ると、ジッポライタと共にロスマンズロイヤルを一本、取り出した。
 何処か紅茶を思わす上品な詠国(イギリス)産細口煙草を口元へ寄せ、火を灯し一服する。肺腑へと満ちる煙は慣れ親しんだ味で、安堵と共に忘れていた惰眠を、そして空腹を沸き立たせた。そういえば、面倒臭くて昨夜から何も食べていなかったのだ。
 帰る前に何処か適当な処で飯でも食おう、そうして塒へと赴けば、熱いシャワーを浴びた後で深くベッドに身を横たえるのだ、と、私が決意していると、不意に鋭い衝撃が起こり、腰から背筋を昇って、脳髄を震わした。
 視線を下へと向ければ、淫乱魔がしてやったりという顔をしている。成る程、こういう食餌は良くするのだろうから何処をどうすればいいか、良く解っているという訳だ。見えざる唇の先は、こちらの意識をかき回す程度には巧みに動き回り、絶えず鋭敏な刺激を送り込んで来る。
 それが少し癪に障った。私はロスマンズを噛んだままに淫乱魔の両角をしかと握り締めると、徐にその頭を振り揺さぶった。彼女は突然の行為に驚き、眼を見開いて手甲を握る。同時に苦悶の悲鳴が喉から搾り出されるも、私は無視して腕を動かし続けた。自らが欲したのだ、きっちり付き合って貰おう。
 ただ、驚愕も最初だけだった様で、何回か頭を振っている間に指は緩まり、抵抗も無くなった。流石は淫乱魔か。まぁそれを言うと、私も似たり寄ったりであり、最後の方は殆ど惰性になる。ゆらゆらと紫煙が立ち昇り、頭上の狭い空へと行くのを眺めて、私は夏が終わるのを感じていた。
 そうして幾許か時が経つと、腰の付け根がきゅぅと締められ、ぶるりと震える。次の瞬間、多量の精液が淫乱魔の口内へと放たれ、彼女は自身望んだミルクをごくりごくりと噛まずに飲み干した。更に、出る分全て出たのを知ると、口を窄めて残っていたものまで吸い出して行く。浅ましい限りである。皿に残った汁や粕を舐め取る様なものだ。が、らしい行為でもあろう。旨いか、と問うと、彼女は一物を放さぬままに首を縦に振った。
 その様に満足するまで口と唇と喉を動かした後、彼女はすっと離れる。と、何処に仕舞ってあったのか小さな瓶を取り出し、その中へどろりと、結構な量の精液を吐き出した。それは何かと私が聞くと、彼女はにへらと白い雫を垂らしながらに唇を吊り上げ応える。
「保存用ですよん。レアモノですからね、後で冷やしてしっかり味わうのす。後は一人で観たり、皆に自慢したり、パーティで使ったり、みぎゃっ。」
 その阿漕さ、もとい阿呆らしさに、私は延髄へと手刀を叩き込むのだった。
 
 すっかり満ち足りた顔の淫乱魔が大事そうに小瓶を抱えて去って行くのを見送った私は、先刻頭の中で語った様に飯処を求め表通りへと向かった。
 普通のそれよりも長いロスマンズが全て灰になるまでぶらぶら歩き、漸く見つけた二十四時間営業の某牛丼チェーン店へと入る。そこで私は、カウンターへ座ると共に店員へ向けて、並、と言い放った。さっと食べてさっと出たいのだから、注文の段階で時間を浪費する事すら避けたいのだ。
 そうして待つ間、このファストフード精神は、あの淫乱魔と同じである事に思い返し、私は苦笑いを浮かべる。それから出された並は失った蛋白分を補うに余りある結構なもので、私は素早くそれを嚥下すると、言い様の無い感情を胸に秘めながら、愛しの塒目指して店を後にするのだった。
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