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識与后(パイモン)
 獣人系統(ワーナンチャラ)達との素晴らしい乱痴気騒ぎを繰広げた次の日の夕という名の朝、塒の安ベッドが上で目覚めた私は、ふと傍らに置いて時計代わりにしている電字式携帯端末(モバイルフォン)に最近逢っていなかった友からの電便(メール)が届いている事へと気が付
いた。内容は、近日中に日本を出て別の地へ行くというものである。実に水臭い限りであり、私は、即座に友へと電話を寄越すと、嫌がる彼女をどうにか説き伏せ、明日の三時に逢う約束を取り付けた。
 そうして明日が今日となった日、百年以上前から概要的に変わらぬ高層建築郡と、行き交う群集の中に少なからず居る保因者の視線から、ここが有数の世界大都(メトロポリス)、塔京(トウキョウ)である事を感じつつ、私はJR新宿駅東口近くにある喫茶店(カフェ)へと向かった。そこは華璃(パリ)風の内装に穏やかな雰囲気が漂う店で、意外かもしれないが結構気に入っており、待ち合わせなどに使っていたりする。
 鼻歌混じりに店内へと入り、ゆったりと流れるクラシック曲に耳を傾けていると、喫煙席が奥に約束の人物が見つかった。私は微笑み、やぁと気軽に向かったのだが、何故か彼女は声に怒気を含ませてこう言い放った。
「自分から逢いたいと懇願してながら長々と女を待たせる気分はどうだ?」
 はて確かに先に来ていたのは彼女の方だが長々とはどういう事かと、壁際に掛かっていた時計を見れば、既に午後も四時を過ぎているではないか。どうも端末の時計がイカれていたらしい。全くこれだから旧型は困る。
 ともあれ、悪いのは自分だから素直に謝りつつ、私は対岸の席に座った。彼女は、全くもう、と呟きながら、吸い終えたキャメルを灰皿へ捨てる。駱駝を描いた特徴的なパッケージが殆ど空なのを確認すると、私は彼女へと視線を移した。
 彼女、私の前ではテトと名乗っている彼女は、以前逢った時と変わらぬ外見をしていた。格好は黒いスラックスのスーツに赤い丸縁の眼鏡を掛けたもので、それだけ言うと所謂キャリアウーマンなのだが、凹凸の薄く小柄な体躯に、腰まである黒のウェーブヘアと合わせて旧家のお嬢様な印象を与える少女じみた顔では、出来る女という印象はしない。まぁ実際は、確かに出来る者であはある。今は知らないけれど、かつては誰もが名前程度は知っている大企業の、かなり上方にて働いていた筈だ。
 だからこそ気になった。そんな彼女が何故日本を去るのだろう、と。給仕に珈琲を注文した後、失礼してロスマンズロイヤルに火を灯すと、私は早速その疑問をテトへぶつけた。彼女は、私が差し出したジッポライタから十何本目かのキャメルを吸いつつ、金色の瞳を何処か遠くへ向けて応えた。
「ちょっと公に動き過ぎたな。登録詐称に気付かれたらしい。うぅん、ばれたという確証は無いが、多分それも時間の問題だ。現盟主のルフィナ・モルグは、流石発足メンバーの一人というべきか、かなり粘着質の連盟保持主義者だから……今の仕事も潮時だし、隠居もいいかな、とな。」
 紅の薄い唇からそう語られた言葉は、私の興味を十二分に誘うものだった。成る程、国際保因者連盟に目を付けられたならば、この国を去るのも道理だ。
 ふむ、と私がそう考えていると、テトの眉間が僅かに吊り上がった。
「……お前、何自分は関係無い、見たいな顔してる? お前と私は同じなんだ。種としてだけじゃなく、登録の有無だってそう。未登録だろう?」
 確かにその通りだ。私は後天的な保因者だから、連盟に登録していない。法律上、私は保因者ではないという事になっているのだ。恐らく、種として最も珍しいだけで無く、最も凶悪な人外の存在であるに関わらず。そしてテトに眼が行くならば、そこを介して私へも来るかもしれない。
 たが、それでも私の心は自然と平穏を保っていた。心音は常と変わらず、笑みが崩れる様な事も無かった。ロスマンズロイヤルの味が、これまた旨い。
 それが癪に障ったのだろうか、彼女は力任せに煙草を灰皿へ押し付け、
「……お前に逢ってやったのはお前の為だと言うのに、どうやら何も解ってないらしいな。失礼する、そろそろ荷造りに戻らないと。」
 そう言って立ち上がると共に、出口目掛けて立ち去ろうとした。
 私は慌てて椅子から腰を上げると、その肩口を掴んで、そっと止まらせた。何だ、と言って、眼鏡越しに睨むテトの片耳に唇を寄せた。そして、囁く様に言葉を発する。半ばそれが気になっていたからこそ、動揺する事も無かったのだが、一物がどうしようも無く勃起しているのが丸解りだぞ、と。
 ぁ、という声と共に、一瞬で頬を沸騰させた彼女の反応は実に満足の行くものだった。我が種に共通する特性はフェロモンの異常分泌だが、私の場合、それは保因者に対する性フェロモンに値する。彼女の持つ知的好奇心の刺激が今私にも作用している様に、同属である彼女へも私のそれは有効なのだ。寧ろ相互効果で倍増しているのだから、全く持って笑いが止まらない。テトが真性半陰陽(ふたなり)であり、加えて耳が性感帯である事を知っていれば尚の事だ。
 私は、俯いて震える彼女の肩を叩き、どうするのかと問うた。勿論答えは解りきったものだったが、その後で彼女はこう付け加えた。周囲から丸っきり浮いた声色と調子で、この魔王っ、と。それこそ当然である事を。

「……だから、嫌なんだ……お前と逢うと、絶対、こうなるからっ……。」
 颯爽と連れ込んだホテルの、柔らかいベッドの上、私の腕を枕にしてそう呟くテトの台詞を肴に、私はロスマンを深く味わっていた。すすり泣く少女の傍らで一服する。これぞ正に紳士の嗜みと言っても過言ではないだろう。
 彼女は、その細長い煙草が消費される暫くの間に心と息を整え、私のと先端当てで灯されたキャメルからどうにか落ち着きを取り戻した。そうして乾いた甘い煙を吐き出すと、彼女は私へと聞いた。
「で、結局お前はどうする? もし……何だったら一緒に私と、来るか?」
 それは決して悪くない提案だったけれど、しかし私は頭を横に振った。
 私は今のこの生活が気に入っている。産むものなどたかが知れている、ろくでも無い生き方だが、しかし愉快には違いない。それは半ば本能のレベルからで、最早違える事は出来ないだろう。それで仮令連盟に見つかり、窮屈で不便な人生を強要されても、それはそれで仕方があるまいのだ、と。
 テトはキャメルを加えたままじっと聞き入っていたが、私が言い終えると体を寄せながら覗き込む様に顔を近づけて言った。
「快楽主義の癖に殊勝だな。それが現在のバビロンに生きる者の考えか?」
 私はそれにも首を横に振って返す。現在じゃない古来からのだ、と。
 そこで彼女は、逢って以来始めてとなる微笑みを見せると、そうだなと首肯して、私の唇に己のものを重ねた。

 その数日後、テトは逃げる様にして日本を去って行った。彼女が乗った旅客機がTVの空きチャンネル色の空目掛けて飛んで行くのを眺めつつ、私は、日本の思い出として渡した土産、職人芸際立つオナホールのサイズが合っていたどうかを、一人考え続けるのであった。
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